第7話
____どこかの国の、遠い昔のお話です。
物語は、そんな一文から始まる。
『あるところに一人の少年がいました。肩に鳥を乗せた少年は小さな村に住んでいて、その鳥を使って、手紙を届けるのが仕事でした。村人たちは玄関先に手紙を置いておき、彼の鳥はその手紙を回収して、少年のところに持って行くのです。届けるのは少年のお仕事。鳥は集めることはできましたが、それ以上はできなかったようです。 ある日、少年がいつものように、集められた手紙を確認していると、一通、見覚えのない手紙がありました。村の人が使っている手紙の紙は、そこまで質のよいものではないのです。しかし、その一人が集めた手紙の中に、やけに質のよい羊皮紙が混ざっていたのです。
『誰も私のことを知らない。誰も私に見向きもしない。私は高いとうに一人きり。こうして文を綴るだけ。誰も私のことに気づかない。誰も私を見てくれない……」
差出人の名も、宛先もない、まるで謎かけのような手紙。少年は鳥に、どこから持ってきたのかと尋ねます。鳥は部屋の外に出て、屋根に上ると、西の方を指します。そこには、大きな塔がありました。
少年は頭を抱えます。その塔は、決して近づいてはならないと言うお触れが出ていたのです。しかし少年は、仕事に実直で何より、こんな手紙を出した人のことが気になってしまいました。そこで、少年は手紙を書くことにしました。
『貴方は誰ですか?』少年はそう書き、鳥に手紙をくわえさせました。そして自分が手紙を届けに行っている間に、その手紙を届けに行ってもらいました。
村々を回って手紙を届け、少年は家に帰ります。すると、そこには鳥がいて、くちばしには新しい手紙がありました。
『鳥飼の人。私はこの国の王女です』
少年は驚きました。この国の王女がどうしてあんなところにいるのでしょうか。
『私も詳しいことは知らないのですが、私が二十五になるまでに生まれた子供は、国王の地位を揺るがす子供になるらしいのです。王はそれを恐れ、私を二十五になるまで閉じ込めているのです。もう十四年になります』
少年はまたまた驚きます。十四年なら少年と同い年です。
『つらくないですか?』
『つらいです、当たり前でしょう? こんな高いところにいるのに、私は空の蒼さすら知らないのです』
その文を見て少年は決めました。空の蒼さすらわからないようなところに、彼女は置かれているのです。
『なら、僕が貴方に空の蒼さを教えます』
少年は、とらわれの姫君を助け出すことを決めました』
この物語は、僕と彼女のあの日の会話をモチーフにしたところから始まる、壮大な冒険と、ボーイミーツガールなのだ。
「……面白いじゃん!」
僕の書いたすべてを読み終えた詩乃は顔を上げてそう叫んだ。
「ふう……それならよかった」
「……まさか徹夜したの?」
「うん。なんか書けちゃってさ」
僕がそう言うと詩乃は急に鬼の形相になった。
「ダメじゃない! 徹夜していいことなんて、基本的にはないんだからね! 私もたまにはしちゃうけど、翌日はろくなことにならないんだから!」
「うん、ごめんごめん……。でも何で徹夜してるの?」
「あ……」
詩乃は僕の指摘に呆けた顔をした。
「……どうしたの?」
「いや……ここなんだけど」
彼女は僕の書いた小説の表現を指さした。そこのシーンは、少年と鳥が一緒に星空を眺めているシーンだった。
「空君、星空眺めたことないでしょ」
「ま、まあそうだけど……」
「はあ……」
詩乃は思いっきりため息をつくと、
「今日の夜、最寄り駅に来れる? 時間があればでいいんだけど」「今日は親がいないからまあ大丈夫だけど?」
「うん。じゃあ防寒をしっかりして来てね」
……どういうことだろうか。全くもって意図が読めないが、こいつが僕をはめたりはしないだろうと思い、頷いて了承した。
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