第4話
『空がきれいな本』———正直全く思いつかなかった。
一つは写真集などだ。言葉通り、、空がきれいな本になっているはずだ。しかし、そんな単純な話ならば、頼んでこないだろう。では、、一体どんなジャンルの本なのだろうか。
視覚に訴えかけるならば絵本なのだろうが、これもまた単純すぎる。となると小説だろうか。しかし、描写が美しいのか、心の中で想像したものが美しいのか、いずれにせよ明確な定義がない。
しかし、何も探さないのもあれなので、僕は学校の図書室ではなく、町にある市立図書館に出向いていた。
が、そこを目の前にして、
「あ、空君だ!」
僕はため息をつきながら、目の前でアホ面さらしながら、手をぶんぶんとこちらに振っている詩乃をみる。
何でこいつがいるんだよ! 全く!
こっちが狙っていたわけがない。たまたまだ。たまたまここに出向いたら、たまたまこいつがいたのだ! 全くもって面倒だ!
「どうしてこんな所にいるんだよ、おまえ!」
「別に散歩してただけですよ~だ」
どうして散歩してたらこんな所に来るんだよ!
思わずため息をついてしまった。
「え、なになに? 『ビレッジブルー』ってやつ?」
「それマリッジブルーな。ついでに言うとそれ、新婚の男女に使うやつだぞ」
「え、私たち新婚さん!? やだ~」
「誤用で照れるな!」
頬を書きながら照れている詩乃に、思わずムキになって突っ込んでしまった。
これは難航しそうだと思って、またため息をついてしまった。
「はぁ……まあ、こいつがいるのもある意味ちょうどいいのか」
「え? どういうこと?」
さっきまでにこやかに笑っていた詩乃は、首をかしげて聞いてくる。
「僕が勘で話すよりも、君に直接聞いた方が楽だって考えただけさ。どんな本でもいいわけじゃないから、僕に聞きに来たんだろ?」
僕がそう聞くと、詩乃はなぜか斜め上を向いて、
「そ、そうだね~」
と、やけに焦った口調で言った。
「……まあいいや。じゃあ、なんか適当なところに座って、本でも読んでなよ。僕は探してくる」
特に追求する気も起きなかったので、僕は本棚の方に向かおうとしたが、すぐに止まった。
「……あの、どうして僕の服の裾を持っているんですかね?」
進もうとした瞬間に、引き留められたのだ。僕は振り返りもせずに、彼女に聞いた。
「ええと……実は……」
『実は』のあとがごにょごにょとして聞こえなかったので、僕は振り返りながらいった。
「なに? 聞こえなかったんだけど」
詩乃は下を向いて、何やらもじもじしている。さては……。
「……トイレならすぐそこだぞ」
「違うからっ!」
そうか、やっぱり違ったか。と、僕は内心でつぶやいてほっとした。もしも的を射ていたら、本格的に困ることになる。
そしてようやく詩乃は口を開いた。
「……本の探し方、知らないの」
「へ?」
「本、どうやって探すか知らないの! 私!」
恥ずかしさをこらえたからか、大声になってしまったらしく、詩乃はよけいに頬を赤らめてうつむいた。
「はぁ……」
余計な仕事を増やすなよ、全く。
「……じゃああれだ、本を探すついでに、なんか適当に見繕ってやるから」
僕はそう言うと図書館の方に向かったが、後ろから着いてくる気配がないので、再度振り返った。
「ほら、行くぞ」
詩乃はうつむけていた顔をこちらに向け、初めて会った火のような笑みを浮かべて、
「うん!」
と、思いっきりうなずくと、こちらに向かってきた。
「さて……今まで関わった感じからすると、君、本とか読まないでしょ?」
僕がじっと見つめると、詩乃は目をそらして、
「ま、まあ、人並みぐらいには読んでますよ。ははは……」
頭を掻いてごまかそう寄する彼女を、僕は見つめ続ける。
「……ごめんなさい、読んでないです」
「うん、素直でよろしい」
まったく、はじめから素直に言えばいいんだ。
「そこまで読んだことがないってことは、小難しいのはだめだよな……」
だとしたら学術書とか、専門書は除外だ。僕は彼女をある棚に案内した。
「ここは?」
「小説の棚だ」
僕は適当な一冊を抜き取る。
「ここを見てくれ」
僕は本の背表紙についているラベルを指さす。
「なにこれ?」
そこには、{913,6 ヒガ}と書いてある。
「これはこの本の種別を表しているんだ」
一般的に、図書館の本には、こういった識別番号がついている。
最初の一桁目の9は文学であることを示していて、1は二位本語のものであることを、3は小説であるということを示していたはず。でもうろ覚えだったので、彼女に話すことはしなかった。
「文庫にせよ、単行本にせよ、ここが913.6って書いてあるものが小説だから、暇潰しにでも読んでみてよ。僕は本を探してくるから」
「わかった」
詩乃は手始めに僕が渡した本を読み始めた。
「難しかったり、合わないようならほかの本を探してみろよ」
と、脱落したときのことも考えていったが、返答はなかった、これは相当集中して読んでいるなと思い、僕はその場を離れた。
「さてと……僕も本探しにいそしみますか」
まずは自分に、きれいな空のイメージを身につけないと。そう思って、僕は写真集だったりが置かれているフロアに向かった。
「ええと、青空か……」
十五分ほど適当に棚をあさっていた、そのときだった。
「どわっ!」
後ろから思いっきりたたかれて、僕は思いっきり本棚にぶつかりそうになってしまった。
「っ……危ないな!」
こんなことをするやつ、詩乃しかいない。きっと悪戯が成功した子供のような目をしているのだろうと思って、僕は振り返る。事実その予想は当たっていた。ただし、半分だけだったが。
僕が見た詩乃の姿は、目をらんらんと輝かせて、にこやかに笑っている姿だった。
「空君これだ! これだよ!」
「……なにがだ」
「私たちが探すべきは、小説だったんだ!」
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