第3話

あらためて『空がきれいな本』というやつについて考えてみたが、正直全く思いつかなかった。

 一つは写真集などだ。言葉通り、、空がきれいな本になっているはずだ。しかし、そんな単純な話ならば、頼んでこないだろう。では、、一体どんなジャンルの本なのだろうか。

 視覚に訴えかけるならば絵本なのだろうが、これもまた単純すぎる。となると小説だろうか。しかし、描写が美しいのか、心の中で想像したものが美しいのか、いずれにせよ明確な定義がない。

 しかし、何も探さないのもあれなので、僕は学校の図書室ではなく、町にある市立図書館に出向いていた。

 が、そこを目の前にして、

「あ、空君だ!」

 僕はため息をつきながら、目の前でアホ面さらしながら、手をぶんぶんとこちらに振っている詩乃をみる。

 何でこいつがいるんだよ! 全く!


 こっちが狙っていたわけがない。たまたまだ。たまたまここに出向いたら、たまたまこいつがいたのだ! 全くもって面倒だ!

「どうしてこんな所にいるんだよ、おまえ!」

「別に散歩してただけですよ~だ」

 どうして散歩してたらこんな所に来るんだよ!

 思わずため息をついてしまった。

「え、なになに? 『ビレッジブルー』ってやつ?」

「それマリッジブルーな。ついでに言うとそれ、新婚の男女に使うやつだぞ」

「え、私たち新婚さん!? やだ~」

「誤用で照れるな!」

 頬を書きながら照れている詩乃に、思わずムキになって突っ込んでしまった。

 これは難航しそうだと思って、またため息をついてしまった。 

 

「はぁ……まあ、こいつがいるのもある意味ちょうどいいのか」

「え? どういうこと?」

 さっきまでにこやかに笑っていた詩乃は、首をかしげて聞いてくる。

「僕が勘で話すよりも、君に直接聞いた方が楽だって考えただけさ。どんな本でもいいわけじゃないから、僕に聞きに来たんだろ?」

 僕がそう聞くと、詩乃はなぜか斜め上を向いて、

「そ、そうだね~」

 と、やけに焦った口調で言った。

「……まあいいや。じゃあ、なんか適当なところに座って、本でも読んでなよ。僕は探してくる」

 特に追求する気も起きなかったので、僕は本棚の方に向かおうとしたが、すぐに止まった。

「……あの、どうして僕の服の裾を持っているんですかね?」

 進もうとした瞬間に、引き留められたのだ。僕は振り返りもせずに、彼女に聞いた。

「ええと……実は……」

 『実は』のあとがごにょごにょとして聞こえなかったので、僕は振り返りながらいった。

「なに? 聞こえなかったんだけど」

 詩乃は下を向いて、何やらもじもじしている。さては……。

「……トイレならすぐそこだぞ」

「違うからっ!」

 そうか、やっぱり違ったか。と、僕は内心でつぶやいてほっとした。もしも的を射ていたら、本格的に困ることになる。

 そしてようやく詩乃は口を開いた。

「……本の探し方、知らないの」

「へ?」

「本、どうやって探すか知らないの! 私!」

 恥ずかしさをこらえたからか、が役に大声になってしまったらしく、詩乃はよけいに頬を赤らめてうつむいた。

「はぁ……」

 余計な仕事を増やすなよ、全く。

「……じゃああれだ、本を探すついでに、なんか適当に見繕ってやるから」

 僕はそう言うと図書館の方に向かったが、後ろから着いてくる気配がないので、再度振り返った。

「ほら、行くぞ」

 詩乃はうつむけていた顔をこちらに向け、初めて会った日のような笑みを浮かべて、

「うん!」

 と、思いっきりうなずくと、こちらに向かってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る