第13話 死にたくない!

 とうとうたどり着いた市門では、騎兵が閉じた市門の内側で待機していた。

 ……しかし、まさか市内からスヴァリアの煙突の騎士が現れると思っていなかったのだろう。大混乱になった。


 スヴァリア軍は本格的な戦争をするつもりは無い。それだけの軍勢がいないのだ。ただ、ヘルン軍の目を市外にくぎ付けにしたいだけだ。


 だから、野戦砲を撃ちはするが、狙いは散発的だった。集中砲火はしない。ヘルン軍に本気になられては困るからだ。ただ、それが意図の読めない攻撃として映るようだ。なんらかの策を警戒して、自然、籠城の構えになる。それがスヴェンの狙いだった。……ただ脱出の時にはいささか不利に働いた。人が多い。


 アクセルが叫ぶ。

「涼太! またデカいのをぶちかませ!」

「了解! ……鶴、いけるか!?」


 鶴はボロボロになった左腕で砲を支えた。


『わかった。やってみる』


 短い返事をして、鶴は魔弾を撃った。人々の間をすり抜けるように一直線。閉じた市門に轟音と共に命中し、門を粉々に砕いた。外が見えた。降りしきる赤い雪でうっすら赤くなった雪原が。

 少し遠くにスヴァリア軍が陣を敷いていた。


「よし、よくやった! みんな急げ、もう少しだ!」


 アクセルの声にわずかばかりの安堵が滲む。ここまでくればもうすぐだ。雪原に足を踏み出す。

 スヴァリア軍が迎え入れるかのように前進する。


(ああ、生きて脱出できる……)


 そう安堵したのが、悪かったのか。


「ばっ、涼太! 上だ! 逃げろ!」


 反射的に上を見る。稜堡の上からマスケット銃でこちらに狙いをつけている銃兵がいた。照準越しに目があった気がした。


 ――そして銃声。


 なぜか俺には銃口から出る弾の様子がはっきり見えた。スローモーションで、このままでは俺の胸を射貫く様まではっきりと。


(っ、死にたくない……! 帰るんだ! みんなで生きて――!)


 俺は何か叫んだ気がした。自分の耳は馬鹿になったかのように、自分の心臓の音しか伝えなかった。


 見覚えのある白い光が溢れ――。きつく目を閉じた。

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