第7話 涼太の任務

 外に出たらレンガ色のゴーレムがずらっと並んでいた。それぞれの大きさは象一頭分ほど。同い年くらいの黒い外套を着た子供たちがまとわりついて何かやっている。

 ……と思ったら、ゴーレムの右腕のデカい筒? らしきものにずっぽりと頭から入っていった。じたばたと足まで吸い込まれていく。


「何やってんのあれ!?」

「煙突掃除さ。煙突の騎士は右手が煙突で、戦時には砲になるんだ。その整備は煙突掃除人にしかできない。……俺たち煙突掃除人が従軍してるわけがわかったろ?」


 俺は頷いた。アクセルはなんともなさそうに言っているが、俺より小さい子もいた。


「煙突掃除人って子供しかいないの?」


 アクセルは肩をすくめた。


「あのな、煙突って狭いんだぜ。中に入って掃除できるのは、俺達のような子供だけだ。常識だろ?」

 しっかりしろよと言いたげだった。俺はますます納得がいかなくて声を低めた。


「……子供でも戦場にも出るの?」

「まぁな。煙突の騎士の砲に魔力を込めたり、観測手を務めたり……。色々だ」

 当然とばかりに笑うアクセル。……俺も戦場に出ることになるのだろうか。

「そっか……」


 アクセルは俺の不安を察したのか、言いよどむ俺の背中をバンと叩いた。ニッと笑う。


「大丈夫だ。今回は戦争じゃなくて、潜入任務だ。戦闘にはならないだろうし、よしんばなったとしても、無理に素人を矢面に立たせねぇよ」


 言い切る様が頼もしい。不覚にもちょっとほろりと来た。


「あ、ありがとう。……そうだ、肝心の潜入任務での俺の役割って何?」

「ああそれか。普通に風呂焚いてくれ。俺らが入るから」


 あっけらかんといってるが、それ潜入任務と何の関係が!?


「ドーツラン帝国じゃ、煙突掃除人のギルドがあってな。『煤の病気にならないために煙突掃除人は毎日風呂に入ることを定める』って決まりがある。だけど俺達スヴァリアの煙突掃除人はギルドに入ってないから、ギルドと提携している風呂屋からは締め出される。さりとて民間の風呂屋は高いし少なくてな。間違いなく吹っ掛けられるし、噂にもなる。”スヴァリアの煙突掃除人が大量にうちの風呂に来るんです”ってな」


 なるほど、その噂は潜入任務には致命的だ。怪しまれる。


「だからお前の風呂を使わせてもらおうってことになる。単純明快だろ?」

「そんな理由があったとは……。まぁ俺には異存はないけど、鶴は?」


 肩越しに振り返ると、通訳のために俺にくっついていた鶴は、嬉しそうに笑った。


『異世界銭湯か、いいねぇ。煙突冥利に尽きるよ』


 こいつ俺と銭湯やりたいって言ってたもんな。図らずとも異世界で願いが叶ったわけだ。

 アクセルはよしよしと頷くと、口を開いた。


「お前も昼は俺達と一緒に情報収集してくれ。風呂の出番は夜な」

「アクセルたちと一緒に……って、でも俺、煙突掃除なんてしたことないけど……」


 戸惑う俺に、アクセルは力強く言い切る。


「大丈夫だ、俺が教えてやるよ。それに簡単だからすぐ慣れる」

 こう言われると、ならやってみようかなって気になる。すごいなアクセル。


「決まりだな。よし、じゃあみんなに紹介するよ。みんな気のいい奴らだから安心しろ」


 アクセルは頼もし気に笑って、みんなを呼び寄せた。

 黒い外套の少年たちがわくわくして駆け寄ってくるのが見えた。

 その笑顔が少しだけ眩しかった。

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