第6話 作戦会議
なし崩しにそのまま作戦会議になった。スヴェンがおもむろに告げる。
「三日後だ。気象天文学師によると、三日後に雪が降る。おそらく王はその日に、生きながら全身を焼かれることになるだろう。それまでに王を救わねば」
さらりと出てきた物騒な言葉に、思わず血の気が引く。
「え、えぐいですね。焼死させるのが、ドーツラン帝国のやり口なんですか?」
「仕方あるまい。ドーツラン帝国はわが国や周辺国の戦場にされ、国土が荒れ果ている。底知れぬ憎しみが募っていることだろう。本当は王の亡骸を焼くだけで、『王灰』は手に入るのだが……。生きながら火刑に処せば国民の溜飲が下がるし、『王灰』も手に入り、国土が回復する。一挙両得だ」
『おうばい』……とはなんだろうか? 聞いたままだと、王の遺灰のことなんだろうけど。どうもそれだけじゃないような……。
悶々としていると鶴が聞いてくれた。
『なぁスヴェン殿。『王灰』ってなんだ? 俺達の国じゃ、遺灰に特別な力はないんだが』
スヴェンは目を瞬かせた。
「王灰のない国があるのか!? ならば戦争で荒れた国を、どうやって立て直すんだ」
どうやってって……。そんなこと言われてこっちが戸惑う。
「地道に時間をかけて復興するしかありませんよ。10年でも20年でもかけて、建物をまた建てて、産業を強化して、輸出して、働いて……」
スヴェンはむしろ感心したように頷いた。
「気の長い話だ。随分と勤勉な国民性なのだな」
褒めているのか、それは。思わず視線が険しくなる。それに気づいたスヴェンは咳払いして説明しだした。
「王灰は、その名の通り王を焼いて得る遺灰だ。破壊されたものは、その灰に触れると元の姿に回復する。戦場にされ荒れ果てた農地も、破壊された家屋もその灰に触れれば、戦前の姿に戻り、むしろ農作物は豊作になる。どんな焼け野原になろうとも、一瞬で街が復興する」
……なにそれずるい。
「無論ただ王灰を撒くだけでは圧倒的に量が少ないし、非効率だ。だから天候を利用する」
『天候を?』
「そうだ、巨大な火葬場で煙を天に届かせ、王灰の溶け込んだ雪や雨を降らせる。それで広範囲の国土を回復させることができる」
で、その王様が火葬場で焼かれるのが三日後と……。
「問題は王を燃やすためだけの火葬場が、十二都市にそれぞれ一つずつあるということだ」
「それって……」
「火葬場を破壊すれば、王は燃やされない。……が、十二都市の火葬場を三日で破壊するには人手も時間も足りない」
思わず頭を抱える。十二なんて多すぎる。
「……もっと絞れなかったんですか?」
「情報は集めたが、いずれも噂話で決め手に欠けるんだ。そもそもドーツラン帝国に侵攻中に王が捕まったものだから、軍に本職の諜報員が少ない」
なんということでしょう……。切羽詰まりすぎだろ……。
「どうすんですかコレ」
「十二都市にそれぞれ調査隊を潜入させ、本命を見つけ出す。そして、十二都市のどれが本命でも、半日あれば駆け付けられるように軍を分割する。……これしかない」
よくよく考えたうえでの決断なんだろう。よどみのない口調だが、苦々しい思いがあるのか顔をしかめている。
「ええと、心中お察しします……。それで、俺はどうすればいいんでしょう」
先ほど聞いた話だと、俺にしかできない役目があるとか……。
「君は調査隊に加わってほしい。風呂がないと潜入もままならないんだ。煙突掃除人のギルドのせいで」
「……は? 潜入調査と風呂にいったい何の関係が……!?」
呆気にとられる俺をよそに、スヴェンは黒い外套の少年を紹介した。
「それはこの子に聞いてくれ。彼はアクセル。腕のいい煙突掃除人で、煙突の騎士のマスターとしての技量も一流だ。……もうわかったと思うが、調査隊は煙突掃除人として潜入してもらう。煙突掃除人ならこの子たちは本職だし、怪しまれないからな」
「え、煙突掃除人がなんで従軍してるんですか?」
そう聞いた俺はよほど驚いた顔だったのだろう。黒い髪のアクセルは、青い目を細めてにやりと笑った。
「外に来れば分かるぜ? なぁおっさん、作戦会議はもういいだろ。やることもう決まってるんだし。それより新入りをみんなに紹介したい。死ぬときは一緒の仲になるんだから」
スヴェンは頷いた。
「あぁ、頼んだ。涼太、潜入作戦決行は明日だ。武運を祈る」
「りょ、了解です」
こうして俺は手を引かれながら、天幕を後にしたのだった。
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