第5話 王鳴
そうして連れてこられた森の中。
少し開けた場所に天幕があちらこちらに張られていた。
外で何やら作業している黒い外套の男――というかよくみると同い年くらいの少年達――は、俺に目を止めるなり、なにやら感動したように興奮して仲間内で囁き合っている。
「……なんだ?」
『察するに、王鳴っていうのがよほど嬉しいらしい。俺たちがここに飛ばされた現象のことだと思うけど、さて……』
鶴も不思議そうに小首を傾げる。
スヴェンはひときわ大きな天幕に俺たちを案内した。
「ここだ、入れ」
「お、おじゃましまーす」
ドキドキしながら入ると、机についていた子供たちが、一斉にこちらに視線を向けた。……やっぱり違和感。
(スヴェンは軍人だから、ここに駐留しているのも軍隊かと思ったけど……軍に子供?)
促されて椅子に座る。スヴェンも上座の椅子に座った。
「さて最初から説明するか。わからなかったら適時質問してくれ」
「はい、お願いします」
「ここはスヴァリア王国とドーツラン帝国の境界だ。我々はスヴァリア王国の軍人で、今は作戦行動中。君は『王鳴(おうめい)』という、王族のみが使える転移術で召喚された。……ここまではいいか?」
神妙に頷く。
「君が元の世界に戻るには、同じく『王鳴』で送り返すしかない。しかし、最悪なことに、……現在王がドーツラン帝国に囚われており、君を送り返す術がない」
「……は?」
「つまり王を取り戻さない限り、君は帰れないと言っているんだ」
「……なん!?」
思わず立ち上がりかけるが、スヴェンは冷静に言葉をつづけた。
「我々も目下王の救出任務に動いている。作戦行動というのはそれだ。……しかし、君の召喚で我々に希望が見えた。王はまだ生きている。ご落命されたのなら王鳴は起きないからだ」
スヴェンたちが王鳴で召喚された俺を見て喜んでいたのはそういうわけか。
「連れ去られた当初から王鳴はひっきりなしにあったが、最近はそれも途絶えていた。今日君が久しぶりに召喚されたことで、王の無事が確認されたというわけだ」
「……一ついいですか? その王鳴ってのは、召喚対象を選ぶんですか? なんで俺が召喚されたのかよくわからないのですが」
「よくぞ聞いてくれた。王鳴は『王族が望むもの』を転移させる術だ。君を救世主と呼んだのはそこに理由がある。君は王に望まれて召喚されたんだ。王を救う切り札になるかもしれない」
そう言われても腰が引ける。
「……あの、俺の国は戦争とは無縁なんです。そこに暮らしていた俺も戦う術を持たない。自分で言うのも嫌になりますが、何の役に立つんです?」
「……君は、風呂屋だろう? 煙突の精も憑いている」
「それが?」
「それが我々の必要としている人材なんだ。これからの作戦に」
どんな作戦なんだ、それは。呆気に取られて思わず無言になる。
スヴェンはそれをどう思ったのか戸惑ったように聞いてきた。
「君は家に帰りたくないのか……?」
「……帰りたいですよ、勿論」
家に残してきた親父が心配だし、俺にはまだやりたいこともある。
……なら迷う必要なんか、ないはずだ。
「協力、させてください。王様の救出作戦に」
俺はスヴェンの目を見てはっきりと宣言した。スヴェンが大きく頷いた。
「よく言ってくれた! よろしく頼む。俺も君の帰還のために最善を尽くそう」
「ありがとうございます。俺も王様救出のためにがんばります」
こちらから手を差し出し、スヴェンとがっちり握手を交わした。同席していた黒い外套の少年たちは、見慣れない握手に不思議そうに小首を傾げていた。
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