ビューティフル・デイズ【BL】

空廼紡

光の中へ溶けていく

 気付いたら、青空を見上げていた。


 なんで、こんな道路のど真ん中で寝ているのだろう、と体中に走る激痛とか焦っている声とかそっちのけで考えていた。


 思い出そうにも思い出せない。激しい痛みに意識が持っていかれ、誘われるまま眠ってしまいそうだった。


 なんだっけ、なんだっけ、と眠らないように思い出そうとした。



――思い出さないほうが、いいよ



 誰かがそう囁く。その声は、自分の声みたいに聞こえた。



――うん、そうだね



 その囁きに応える。


 自分がそのほうがいいって言っているんだ。そうに決まっている。


 思い出せないけど、どうしようもなく胸が痛かったのを覚えているから。


 自然と笑みが零れた。形になっているかどうか、知らないけれど。


 感触が消えていく。

 透明になっていく。

 虚ろになっていく。


 怖いとは感じなかった。自分の中が白くなることに、じわじわと嬉しさが広がっていく。


 忘れたほうがいいものだから、こんな荷物は手放したほうがいい。こんな荷物、いらない。


 瞼が重くてしょうがない。ずっと、このまま眠ってしまいたい、と心から願った。


 ゆっくりと瞼を閉じる。


 最後に見た青空はとても綺麗で、自分の中にあるなにかが吸い込まれ、溶けていくような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る