第393話

 さて、できることならこれでやっれてくれると嬉しいんだけどそうは行かないよな。

 背後でアホみたいな量の魔力をため続けるオクトモアへの警戒も緩められない。

 相手が分散するよりもまとまってくれる方がネヴィスさん達を守りやすい。


「想像よりダメージは大きくなさそうでおっさん泣きそうだ」


「肯定。想定ダメージ量の2/3ほどのダメージでしょうか」


「幸運ってやつは本当に厄介だな」


 隣に並んできたブレアと会話をしながら、先程鈍色の巨人の拳が降り注いだ場所に視線を向ける。


 砂煙が晴れていくと、いささかダメージを食らった様子のパンペロとアニバサリオがいたが、戦闘不能には程遠そうだ。


「警告。背後の魔族の魔力蓄積量が本機最大出力の550%まで上昇を確認」


「これ駄目なやつだわ。逃げられる方法とかあるか?」


「否定。ぶっ放すだけでジ・エンドです」


「おいおいネヴィスさん、本当に大丈夫なんだろうな……」


 小声で話しているとオクトモアがパンペロとアニバサリオに声をかけた。


「この魔力をお前たちに移す。一気に仕留めろ」


 そんな事もできるのかよ。さすが原初の魔王の因子から作られた種族だな畜生が。


「任されよう」


 プライドの高そうなアニバサリオは不服そうな表情だが、パンペロが同意すると渋々といった様子でオクトモアの差し出した手を握った。


 二人がオクトモアの手を握ると同時に、高められた魔力が更に爆発的に膨れ上がる。

 これは普通に魔力を高めただけでは到底ありえない上昇量だ。

 こんなのどう考えても………


 その時、ネヴィスさんが声を上げた。


「今よ! 最大火力をぶちかまして!」


 ネヴィスさんの声に方を跳ね上げながら急いで攻撃の準備を始めようとした。

 そう、俺たちは攻撃していないのだ。


 俺とブレアの間を切り裂くように、闘気をこれでもかと叩き込んだであろう槍が通過する。


 視線を槍の射線上に向けると、炎を纏い、パンペロとアニバサリオを抱き寄せるオクトモアがこちらに柔らかな笑みを浮かべていた。


「―――ありがとう。我が生みの親に、そして千器様に、どうかよろしく」


 大量の引火性液体に火をくべるように、オクトモアの暴力的なまでの魔力がシーバスの放った槍の力を起爆剤にし、内包する魔力量が爆発的に上昇。

 そしてついにオクトモアの炎は白炎へと至った。


 白炎はストラス・アイラがこの異世界でようやく到達した炎の極地である。

 それをこんな場所で目にできるなんて思っても見なかった。


 決して大きな炎ではない。それどころか、人を一人包み込むことも難しそうな大きさしかない。  

 そんな小さな白炎がオクトモアの体からパンペロとアニバサリオに伸びていく。


「な、なんだこれは!? 燃焼と分解が同時に行われている!? アニバサリオ! この炎に触れるのは危険すぎる! 今すぐ脱出しろ!」


「ふざけるな! オクトモア! 貴様ぁぁぁあ!!」


 冷静に分析し、指示を出すパンペロだが、その指示はアニバサリオに全く届いていない。

 激高しているアニバサリオはジタバタと暴れまわるが、そのせいか、白炎が至るところに燃え移ってしまっている。


 俺も聞いた話だが、パンペロの分析は正しく、あの白炎は分解と燃焼の2つの効果があるそうだ。

 そしてその2つの力は概念に作用する。


 故に白炎は水を燃焼させ、氷を燃焼させ、すべての酸素を燃焼させてもなお燃焼を続けることができる。

 キルキス女帝の個性“矛盾”を正面から打ち破った数少ない力でもある。


 そんなものに触れて無事で済むはずがない。

 オクトモアだったものはすぐに燃え尽き、そして次に燃焼の進んでいたアニバサリオが燃え尽きる。

 幸運なんてものもこれだけの力の前には意味をなさず、すべてを燃やし尽くされ消滅していった。


「見事。可能であれば弟の敵である千器とたたってみたかったが、致し方あるまい」


「済まねえな」


「うむ。この先に目的のものがある。負けるなよ」 

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