第179話 よくいるサポートキャラって普通に怪しいよね

 俺達のやり取りを見たカリラはいぶかし気な表情を浮かべるも、それをジュースと一緒に飲み込み、勝手に注文したソーセージの盛り合わせをぱくつき始めてしまった。


 それをしり目に、俺は薄ら笑いを浮かべるじじいオークに視線を向け、店員にとある酒を出すように指示を出した。


「お待たせしました。スモーキーヘッドです」


 注文後まもなく、俺達の前に出された見るからにマズそうな酒。

 ネズミ色をした粘度の高い液体が置かれた拍子にグラスの中でコポリと波打つのが見えた。


「俺のおごりだ。飲みな」


「ははは……まさか常套句に対してこんなゲテモノを出されるとは思ってもみなかったぜ……まあ―――」


 そう言った男はグラスを勢いよく煽り、中に入っている鼠色の液体を容易に飲み切ると、若干酒のせいで上気した頬のまま口元を乱雑に拭って見せた。


「俺もこの道がなげえ。これしきの事じゃ―――お”ろ”お”ろ”ろ”ろ”ろ”ろ”r……」


「ぎゃぁぁっぁあ!!!てめえ調子乗ってかっこつけたくせに吐いてんじゃねえよ!施設に送り込むぞくそじじい!!!」



 それからじじいの吐瀉物まみれになったカウンターの上の物は店員が軽快にしたうちのビートを刻みながら片付け、顔を洗ってきたじじいは盛り合わせをダメにされたカリラに半殺しにされて、ようやくじじいと話をできる状態に戻った。


「へへっ……話を聞く前にここまでされるたぁ相当な厄介事見てえだな……」


「へへっじゃねえよドカス。半分以上テメエの自己責任じゃねえか。勝手に俺達側のハードル上げるんじゃねえ」


「んで?アンタらの目的は一体何なんだ?」


「ほんとにこいつで大丈夫?ねえカリラたん!ほんとに大丈夫なの!?」


 俺がカリラに話を振ると、ギョロっと血走った目でこちらを見下してきたカリラ。

 そうです、今僕たちはカウンターを汚してカリラ大明神の逆鱗に触れ、カウンターの下に正座で座っているのです。


 ちなみにカリラに話を振った理由だけど、振り返るとちょっとカリラのパンツが見えるのです。

 今日はえっちぃ紫色でした。


「そもそもあたしゃそこのゲロじじいが何者なのかも知らねえんでそんなこと分かりゃしねえってんですよ」


「カリラたん。ナチュラルに会話の中で人の目に指を突っ込むのはどうかと思うの……まあそれは置いておいて、このじじいは説明が難しいんだけど、アングラーって言って、俺達みたいな流れ者に色んな情報を売買してるやつらだよ。んでさっきのやり取りは昔っからアングラーの良し悪しを見極めるための儀式みたいなもので、どういう反応を見せるかでそのアングラーの性質とかキャリアが分かるんだ。んで、このおっさんはどれをとっても最高級だね。俺達の情報をここまで早く仕入れて、行動を予想し、ここに足を運んだ時点でそれはわかってたんだけど、あの酒を飲むか、違う酒に入れて割るかでこのおっさんの性質も良く分かったのよ」


 これは俺のいた時代からあった風習だけど、本当にごく一部の優良アングラーにしか伝わらない、客側では貴族の中でも相当上位の貴族か、一流以上の冒険者にしか開示されない情報だから信憑性は高いと思う。

 まあ500年で情報が漏れたことも考えられるけど、だったらそもそもこの方法は廃れて、このおっさんは違うアプローチを俺にかけてきたはずだしな。


「信用はまだ分からないけど、利用することはできるレベルだってのはわかったよ。しっかりとした場所で話しをしようか」


 そう言った俺に相好を崩したおっさんは立ち上がると、膝に付いた埃を叩き、すたすたと出口まで歩いていく。

 どうやらそれ用の場所も既に確保してくれてるみたいだね。


「―――いや着いてこいよッ!なんで座り直して酒飲んでんだよ!」


 ニカッと笑みを浮かべながら、親指で入口の外を指したおっさんを無視して酒を飲み始めたら突っ込まれた。


「は?まだカリラが食べてるでしょうが。君こそ何言ってんの?頭で黒ひげ危機一髪されるよ?」


 歯ぎしりをしながら渋々戻ってきたおっさんは深い溜め息をつきながら再び席に座り直し、未だにもぐもぐしてるカリラを鋭い視線で睨みつけた。


 って言うかさ、俺は信用するなんて一言も言ってないじゃん?なんでそれなのにお前のテリトリーに突っ込んでいかないといけないの?バカなの?


「さてっと、カリラたんのエネルギー補給も終わったことだし、向こうテーブルで話しでもしようじゃないの」


 あえておっさんの用意した場所を使わず、開けた場所にある酒場のテーブルを指さしてやれば、おっさんは一瞬目を見開きながらも、呆れたように溜め息を吐き出した。


「―――その歳にしちゃ警戒心強すぎるんじゃねえか?」


「警戒心に年齢は関係ないし、そもそも俺はおっさんが思うより若くないからね」


 神経質すぎる程慎重になっても回避できない面倒事がある以上、これ以上面倒なことに巻き込まれるのは御免被りたい。

 だったら俺は俺のやり方でやらせてもらうのが一番だし、この世界の歩き方を俺はこの世界の誰よりも深く知っている自信がある。







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