第160話 安易な発言は命取り
◇ ◇ ◇
世界は残酷だ。特にこの世界は残酷なだけではなく悪辣だ。明確な悪意を感じる。
都合よく進むことなんかほとんどないし、いいことしたって褒められやしない。人を救っても謝礼じゃなく拳が飛んでくるなんざよくある。
だが、最近少しだけ、本当に少しだけこの世界もまんざらでもねえかもなぁ、なんて思っていたんだが、やっぱりこの世界は最低最悪の糞カスだ。悪意に満ち溢れてやがる。
目が覚めた時、俺の顔を覗き込んでいたのはラフロイグだった。
「我が同志よ、目が覚めたか?」
「死ね」
まあナースコールって言っても仕組みは原始的で、押すとナース共が張ってる場所のベルが鳴るってだけなんだが。
「ようやっと目が覚めおったか!」
最初に飛び込んできたのはババアだった。まあ身体能力的にもそうだろうね。
次に会長と団長が入って来て、そこからはぞろぞろと勇者諸君が俺の病室に入ってきた。
最後にブレアとクイーンがやって来て、俺の前まで来ると、ブレアが俺に頭を下げてきた。
「謝罪。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
「まあいいってことよ。あいつの人格は復活までに相当時間もかかるし、暫くはゆっくりできるだろ」
「肯定。はい、皆様にもとてもよくしていただいております」
そうかい、そりゃよかったぜ。
「……大塚……」
神崎が俺の前で顔を伏せながら話しかけてきた。一体どうしたんだ?
「済まなかった……本当に……俺はお前のことを誤解していた……それに、強く当たったことも一度や二度じゃない……こんな俺を許してくれなんて言えないが、それでも伝えたかったんだ……」
「いや、許すよ……五億で」
「ほっ、本当か!?ありが―――え?」
「ん?」
「いや、今五億って……え?お金を取るのか?」
「は?何言ってんの?当たり前でしょうが。君の心無い言動で俺がどれだけ傷ついたと思ってんの?ねえそこらへん罪悪感とか感じないの?君に良心はないの?」
「い、いやでも……五億って……さすがにそれは……」
「あいだだだだっ!?こ、心の古傷がぁぁっぁああっ!!!!」
「わ、分かった!わかったから!」
へ、バカな野郎だぜ。これで馬車馬のように働かせられるやつを一人確保できたぜ。
完済されそうになったら適当に“利息分合わせて100億だぜ”とか言ってやろう。
「統制協会の連中も聞いてるから踏み倒す事なんざできねえからな!」
そう言えば神崎は肩を落としながら一歩下がっていった。
「大塚。“また”君に助けられてしまったな……」
「またって言われても分からねえんだけどな。まあ貸ってことで一つよろしこ」
「ふふっ、元より君に頼まれれば体を捧げることだろうと子供を産むことだろうと、遺伝子を取り込むことだろうとなんだって二つ返事で了承するさ」
いや、頑なに俺の遺伝子を狙ってやがるだけじゃねえか。
「はぁ……どうして俺の周りにはまともなヒロインがいないんだろうね……死にたくなってくるよ……」
そう考え、人生に絶望していると、視界に坂下が生えてきた。それはもうにょきっと。
「ゆーりんおひさ~」
「あぁ、坂下、結婚しよう」
「あはは……ちょっとごめん」
一番つらい感じの断られ方をされました。
「須鴨さん、俺にはもう君しかいない。体だけの関係でいいから!」
「お前はどんな思考回路してんだ……そんな告白聞いた事もねえよ……」
須鴨さんに視線を移せば途端にゲイ野郎が須鴨さんの前に立ちはだかった。この空気はまさか……
「テメエ脇役……まさか……」
「い、いやまだ、そんなんじゃねえよ!?」
“まだ”かよ。しかも須鴨さんも満更でも無さそうな顔だし……世の中は不条理だ。
「死ね。リアルが充実してるやつは皆等しく死ね」
「ゆーりん落ち着きなってばぁ」
苛立つ俺の視界に再び坂下が生えてくる。今度はゆっさゆっさと。
なんだろこの生き物。とりあえず可愛い。
「もう俺の童貞を貰ってくれんのは坂下とブレアとカリラとキャロンくらいだ……ってカリラは?」
「童貞貰われ過ぎだろッ!?初体験でどんな経験するつもりだお前!」
すかさず脇役がツッコミを入れてくるが、俺は華麗にスルーした!
「あぁ、あやつならこやつらの従者と話があるとか言ってどこかに出ていきおったぞ」
え、なんか恐ろしい事が起こってる気がするのはどうしてなんだろうか。
そんなことを話していれば、ブレアが俺の服の裾をちょこちょこっと引っ張って来た。
どうやら俺の予想通りこれから少し話しをしたいとの事。これでようやく俺の童貞ライフにも終止符を打てるってもんだ。
一旦その場が解散になるまで待ち、俺はブレアに呼び出された統制協会マキナ支部の裏を街の外に少し行った場所にあるある小高い丘にやってきた。
少しだけ早くついてしまったのでその丘を見れば、まあ何と言うか、人工物だった。と言うか所々機械がむき出しになってやがる。
告白の雰囲気もくそもねえな。
「謝罪。お待たせいたしました」
「おいテメエ何俺のブレアたんの保護者気取ってやがんだよ。膾に叩くぞ」
ようやくやってきたブレアの隣には何故か統制協会のクイーンが居やがって、俺に視線を合わせないようにそっぽを向いてやがる。
「仕方ねえだろ……同郷だって知ってから色々話してたんだからよ」
「困惑。主人はクイーンが居ると何かマズいですか?」
「い、いや俺はいいんだよ?だけどブレアはいいのかなってさ」
「肯定。何も問題ありません」
マジか。まさか公開告白されるとは思わなかったぜ。とりあえず隣のクイーンには後で俺とブレアの関係を他言しないようにしてもらわないといけないな。
ここから俺のハーレム計画がようやく始まるんだから。
「報告。主人、本機には異常があります」
唐突に、なんの前触れもなく、脈絡もなく語り始めたブレア。まあ異常って言えば異常なんじゃないかな。別の人格が中に入ってるわけだし。
まあ今は休止状態に追い込まれてるからどうにでもできるけど。
「追記。胸の奥が何故かチクチクとするのです。話をするだけで高揚してしまうのです。視界に入るだけで顔が熱くなってしまうのです……」
普段の無表情ではなく、不安げに眉を顰めるその姿が普通の人間よりも人間らしくてついおかしくなってしまった。
「はは、いい事じゃねえか。戦いの最中にも言ったと思うが、それが心ってもんだよ」
「報告。既に様々な書物から実はこの症状の名前はわかっているのですが、どうしてそれが本機に芽生えたのか分からないのです。どこからともなくあふれ出してくるこの気持ちをどうしても伝えずにはいられないのです」
来たっ!
「あぁ、それでいいんだよ。伝えちまっていいんだよ。お前にせっかく芽生えた心がそうしたいって言ってるんなら、それに従うのが“人間として生きる”ってことになるんだよ。体が機械だろうが、人間と別の種族だろうがそんなもんは関係ねえ。なんせ俺も、そこにいるクイーンだって元は別の世界から来たんだからな。世界の違いに比べりゃ種族の違いなんざ背が高いか低いか程度の違いにしかならねえさ」
「了承……わかりました……」
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