第124話 ハーレムを作りたい年頃

 俺があまりに残酷な現実から逃避していると、ラガブーリンと名乗る男が俺の肩に手を置いてきた。


「先祖より千器という男はなんでもありだと聞かされていたが、まさか500年も経った今再びこの地に舞い戻り、剰えこの私よりも若い姿で現れるとは……眉唾だと思っていた千器伝説が本当であったことが今目の前で証明されたようだ」


 いかついその男が俺にそう言うと同時に、今更になって、背後に控えていた連中が俺のことを見て「せ、千器だとっ!?」とか「統制協会の支部を私物化しようとした悪魔がなぜっ!?」や「に、逃げるぞ!奴隷にされる!!!」などなどとんでもない誹謗中傷を受けた。

 まあ確かに?今言われた事全部本当だし、俺も少しやり過ぎたかもとか思ってたけどさ、改めて思い出すと、全部お前らが最初に喧嘩売って来て、返り討ちにしただけなんだよね……キルキスが。

 いつもいつも「決闘だ!」とかほざいて手袋ぶつけてくるからムカついて、条件と戦う方法を俺が決めてたんだけど、俺の指定した場所で、一対一、ってのを条件にすれば、この馬鹿ども全員“俺と”一対一で戦うもんだと思ってくれたのか、のこのこやって来てキルキスにボコられて、俺に服従することになったんだよね。


 その中であまりにもムカつく連中には今朝みたいな嫌がらせをしたうえでブチ転がした(キルキスが)んだよね。


 は?他力本願?何言ってんだよ、人脈だって力だ。


「ところでさ……イクトグラムって誰と結婚したの?まさかキャロン?いやいやいや……さすがにキャロンはないだろ……じゃあもしかしてそこのロリババアか?……いや、それだけはない。あのイクトグラムが普通にぶん殴る見た目幼女はロリババアくらいだしな…………余計なぞは深まるぜ………」


 俺の言葉を聞いたラガブーリンが少し恥ずかしそうな顔をしながら頬を掻いた。どうにも先祖の醜態を目の当たりにして少し恥ずかしくなってしまったというか気まずくなったというか、まあそんな感じだろう。


「……たしか……響という女性と……」


 のぉぉおおおおおっ!!?!?ひびきだぁぁぁあ!??なんで、なんでそうなったんだよ!!!どうして小児性愛者のイクトグラムが響なんだよ!おかしいだろ!だってアイツ俺達の仲間の中で一番バインバインだし、身長だって俺なんかより高いんだぞ?180以上あるんだぞ!?それがどうやったら幼女ラブのあの糞ペドと結婚なんかするんだよ!と言うかそんなことより、響は俺のハーレム候補として連れてきたはずなのにあのペド野郎に寝取られたってのがいっちばん気にくわねえ!!!


「おいこらロリコン族の末裔……テメエの先祖はどうやら自分の信念を曲げてまでちんこをおっ立てる卑しい奴だったみてぇだな」


「いや……それなのだが……我が先祖イクトグラムの残した“交換日記”にある記述があり……」


 ガキかっ!何が交換日記だよ!あ、ガキが好きだからか。

 にしてもどうして……。


「我が先祖のイクトグラムがどうして亡命されたかはご存知だと思います」


「あぁ、そうだな。金に溺れたあいつの嫁が内戦の時あいつの事後ろから刺したんだったな……そういやその時から幼女に目覚めたとか前に言ってたっけ」


「それが、それこそが響……百姫を率いる最悪の傭兵団の団長と結婚した理由だそうだ……なんでも、イクトグラムがその……“目覚めた”理由が、大空のように澄み切った心と、新雪のような汚れない魂が幼女にしかないからだと……」


 ……納得。激しく納得だ。確かに響のやつは頭ン中空っぽの馬鹿だし、絶対に仲間を裏切るような奴じゃねえ。嘘も絶対に付かないというか、バカ過ぎて嘘つく発想自体がない。戦うことと、酒飲むこと、それと飯と仲間のこと以外は何も思考してねえような奴だったからな……それがイクトグラムの琴線に触れちまったってことか……

 ってことはイクトグラムの頭のいかれるレベルの加護や、英雄の血筋に、響の“巨人の血”が混ざっちまったってことかよ。響のやつがイクトグラムに惚れちまった理由はまあ、分からなくもねえけどさ。

 あれだけの攻撃を一身に受けて、ピンピンしてやがる姿は巨人に取っちゃ相当に勇ましい姿に見えるだろうし、何よりあいつの持ってた巨人の加護は本物の巨人でさえほとんどのやつが持たなかったものだしな。

 だけど、なんか心の奥深くの所で納得したくねえって気持ちが湧き上がってきやがる。

 あいつは死ぬまで、死んで何度転生しようがロリコンだと思ってたのに………


「ラガブーリンよ、貴様は世間話をしに来たわけでもあるまい。早速会議を始めるぞ」


 さすがに発言力のあるババアだな。と言うかいつ立ち直った。それに、ラガブーリンがこんなところにいるってことは、どっかで“勇者の血”も入ったんだろうな。あぁ、いやだねえ。これでもし“覚醒遺伝”何か起こしたら化け物が生まれちまうじゃねえか。

 あ、隔世遺伝じゃないよ。


 俺のことを恐怖の大魔王かってくらいの警戒っぷりを披露するほかの連中をしり目に、俺はババアの本来座るはずの椅子に腰かけ、カリラに蹴り落され、結局床に正座した。


「ではこれより、剣王祭の運営会議を始める!」

 

 会議ってそれだったんだ……。


「まず、現状の出場参加者数を……ローヤル」


「はい。現状の参加表明者数は前回大会から12パーセント減の491人となっております。今大会の参加表明数の減少はまず間違いなく【不撓不屈】と【百錬自得】、そして【無冠】の三名の参加が響いていると考えられております。彼らの参加表明を聞き、辞退した者が多く出ているようです」


 立ち上がり、そう話をし始めたのは、モヤシのような男だった。色白に、細い手足、どこから見ても戦闘を生業とする者には見えない。

 どうやら俺のいない間に統制協会もあり方を変えたようだね。昔の完全実力主義な張り詰めるみたいな緊張感がなくなってるし。


「あぁっと、ちなみに俺も出るからな、剣王祭」


 俺が割って入れば、ババアとラガブーリン以外の連中が椅子から崩れ落ち、頭を抱え始めた。

 どうしてそうなるのよ。


「落ち着かんか!なぁに、参加者の減った分はこやつが客寄せパンダになってくれるので問題はないわ!今すぐ広告代理店に“千器の再来と呼ばれる男が参加を表明した”という一文を差し入れる様に連絡を取るのじゃ!」


 広告代理店とかあるのね……それはいいんだけど、むやみやたらと俺のことを持ち上げようとするのやめてくれませんかね。これから襲い来る不幸がとんでもない速さで加速していく気がしてならないんだけど。

 正直手袋は返して欲しいから参加するけど、勝てる見込み何か欠片もねえんだからな?


「まあテメエが出てもどうせ一回戦敗退がオチってもんですよ」


「そんなことはないぞ?こやつは過去に3度剣王祭で優勝しておるからの」

 

 まあね……超絶卑怯な手段と、ゴミみたいな作戦をコネコネと練り上げ、ようやく優勝した感じだから。それに、それ以降の大会はルールが変わって、俺の作戦が全面的に禁止になって初戦敗退したし。


「くくっ、貴様の言いたい事はわかっておる。安心せい、あれ以降貴様のような奴は現れんかったからのう。ルールは“伝統ある当初のもの”に戻っておるわ」


 あ、これ勝ったわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る