第120話 当社では様々な世界の豆バスを取り揃えております

 その後、統制協会のクイーンが話しを終えたようで、嫌そうな顔をしながらこちらに戻ってきた。


「あぁっと……とりあえず許可が下りて、迎えが来るんだが………」


 そこまで聞いて、もう何が問題なのかを悟った俺はさすがに問題や揉め事に慣れすぎている気がする。そもそも、なんで俺なんかの為に最高戦力に数えられるババアが迎えに来るんだよ。

 明らかにあいつ俺に喧嘩売ってくるつもりじゃん。「500年前の雪辱を晴らしに来たのじゃ!」とか言いながら、俺に負けた後の壮絶な修行の話しとかしようとしてくるじゃん。

 年寄りだから話なげーんだよなぁ。それに同じ話何回もしてくるし、ほんとそろそろ何かしらの施設に預けた方が良いよあれ。500年前でもそうだったんだから今はどうなってるか想像もしたくないよ。


 そんなことを思っていたせいか、ババアの対策を考える前に、ババアと思われる気配がこちらに猛スピードで接近していることに気が付いてしまった。

 俺は1歩後ろに下がり、先程まで俺がいた場所に向けて思い切り足を振り下ろした。


「のっはっはっはっ!まさか地下からくるとびゅっ!?」


 地面を掘って現れたイカレババアを文字通り土に返した。

 その光景を見たカリラが当然のように俺の頭をシバき、クイーンは顎が外れそうなほど驚いていた。


 まあ俺のカス身体能力じゃ頭を踏みつけてもダメージ与えられないし、ババア程の勇者がこの程度でどうにかなるはずがない。


「さすがは千器。我が生涯のらいびゃる………ライバルだ!」


 がっつり噛んだことをなかったことにしながら、地面から生えてきたロリババア。

 ピンク色の髪をツインテ―ルにしており、それが俺を威嚇するようにグルんグルん回ってる。

 本当に意味不明なババアだな。


「久しぶりだなクソババア。相変わらず年齢詐称してんな」


「貴様こそ、ただの人間がどうやって500年を生きながらえ、剰え若返りおったのじゃ」


 完全に地面から出てきたババアの服には一切の汚れが付いておらず、唯一汚れている顔面は俺が踏んだからだ。

 小奇麗な巫女装束に、首元にはかつて俺が敬老の意味合いで送り付けた“ボケ防止”の効果の期待できるネックレスが下げられていた。


「元の世界に戻ったんだよ。そしたら向こうを出た時の姿になってたんだ」


「ほほぅ……そんなことがのう―――というナチュラルな会話からの―――ナチュラルアタック!」


 バカみたいな奇声を上げながら俺に襲い掛かってくるババアの目の前に、臭い袋を出してやると、一瞬にしてその場から飛びのき、クイーンの後ろでプルプルと震え始めた。

 どうやら三日三晩穴の中で臭い袋風呂に入れられたことが相当なトラウマになってるみたいだな。


「そんなことよりなんでわざわざお前が俺を迎えに来てんだよ」


 小動物のように顔だけコチラから見えるところに出したババアが、今度は体だけは隠したままビシッと俺に指さして言ってきた。


「500年前の雪辱腫らしに来たのじゃ!貴様に負けてからというもの、貴様を倒すことだけを考えて―――」


「はいはいその話はもう聞き飽きたよ。何回お前の昔話聞かされてっと思ってんだ。それにどうせこの500年で激しい修行を積んで………とか言うつもりだろうけど、それでもお前は俺に勝てない。絶対にだ!」


 勇者の中でも最高峰に位置する加護の強さを持つババア。加護の強さだけであれば、キャロン達とも全く引けを取らない。だが、それでもこいつは俺に勝つことができない。

 別に臭い袋を使わなくても俺はこいつに勝つことができる。


「ほほう。500年という時間が如何にこの儂を強大にしたか………その体に刻み込んでやろうではないか!」


「………お前俺に負けた583回のうち、あと580個も俺の命令に絶対服従なの忘れてない?」


 バカじゃねえの?なんでこいつこんだけ長生きで、統制協会きっての頭脳派なのにこんなバカなの?と言うか俺に1回でも負けたらそれ以降逆転不可能だから。1日絶対服従で決闘申し込ませて、負けさせての繰り返しでダブルアップだから。


「………今日はちょっとあれじゃ。虫歯が痛いから勘弁してやるわ。さっさと本部に向かうぞ」


「ガキみてえに菓子ばっか食ってからだろ。年齢考えろよアラサウザント」


「貴様本当に余計なことしか言わんの………ま、まあでも今日は本当に虫歯が痛いから貴様をぶっ飛ばしてやれん。貴様も虫歯が痛い儂に負けたとあっては言い訳もできまい?」


「ねえ?本当にお前一回でいいからぶっ飛ばしていい?命令使って無抵抗のお前タコ殴りにしたいんだけど」


「………おっ!こんなところにハンサムが!………と思ったら千器ではないか!随分と見ない間に男前になりおって!このこの~」


「はぁ、まあ何でもいいんだけどさ。それと、“ブックマーク”がはがれたからつけなおすぞ」


 そう言ってめんどくさいロリババアの首元にもう一度バーコードのような物を刻む。まあ刻むって言っても痛みもなければ付けられた感覚もないんだけどね。

 相手の了承があれば付けられるだけだし。


「儂もそこまで暇ではない。そろそろ本部に向かうとするかの」


 一度そう言うと、ババアは統制協会が保有するアーティファクトの一つである少人数移動用運搬機豆バスに乗り込んだ。

 ババアの持ってる収納袋は店売りの最高級なんか相手にならない容量だしな。

 俺のアイテムボックス?いろんなずるしてるからババアの収納袋よりもデカいぞ。キルキスとマッカランの合作だし。効果は察してくれ。ただ、素材集めだけで100回は死にかけたとだけ言っておこう。


 激しく狼狽えて、もはや何から突っ込めばいいのか分からなくなっているカリラを何とか宥め(17~18発はいいのを貰った)俺達も豆バスに乗り込んだ。

 無駄に座り心地の良い座席に腰かければ、前の席から修学旅行中の学生のように、顔を覗かせてきたババア。

 何となく目障りだったので、目にタバスコを掛けておいた。

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