第119話 機械ってなんかいいよね
いやーほんとに楽しいわコレ。
昔のにわか知識持った勇者が広めた“左手の手袋”を投げる決闘、そのバカなルールのお陰でこんなに楽しめてるわけだ。
本来俺達の世界では、手袋はどちらでも構わない。右利きが多いから左手の手袋を投げるみたいな風潮があっただけだし、そもそも足元に投げるだけなのに、漫画とかに影響されてたのかね。
泣きながら地面に拳をぶつける貴族様の顔面に、俺は左手に着けていたウンコまみれの手袋を叩きつけ、ニヤリと笑ってやった。
「最後のチャンスだ。拾いな」
ついに顔までウンコまみれになって、もう顔の色が真っ青の貴族様だけど、羞恥心や生理的嫌悪感よりも、俺への殺意が上回ったのか、今後は速攻でその手袋を握りしめた。
「必ず、殺してやる………」
ぶじゅっと握られた指の間から手袋に付着したうんこが嫌な音を立てる。
「ちなみにこんなこともあろうかと、俺は常に右手の手袋を両手にはめてる」
要するに、左手から取っても、右手用の手袋。
決闘は出来ない。
「イヤー楽しかったね」
個性の無駄な応用の1つ
血管でも切れたのか、ブチって音がしてから泡を吹き出し始めた貴族様をしり目に、クイーンに視線を向ける。
「んで、これは俺の勝ちでいいんだろ?」
「何言ってやがんですかテメエ………」
あきれ顔のカリラが俺の隣に並んできた。
どうやらカリラも“この事”に気が付いていないみたいだね。
「決闘は正式に執り行われてるぞ。ちゃんとクイーンが開始の合図もしてたし、俺が止めたのは開始後だ。今までの茶番全部、決闘の中で行われてたんだよ。まあ、貴族様はそれに気が付いていなかったみたいだけどね」
終始叫び声をあげてた取り巻きの女どもはその場に膝を付き、観衆は完全にあきれ顔だ。
まあでも、クイーンだけはそうじゃないみたいだね。
「お前が再来したって噂の千器か………手口まで歴史書と同じとか最悪だなおい」
「やっぱババアの力でわかっちゃうのか。面倒なことこの上ないな」
統制協会の抱える最大戦力の一人が、特定の者、物を見つけ出すことができる異能を持っている。その名を千里眼といい、かつて俺にイイオトコの合体シーンを見させられ、敗北したババアだ。今回はそいつの力を逆に利用して統制協会側に動いてもらおうって作戦なのよね。この貴族様は申し訳ないけどその為に挑発した。まぁ後ろの奴隷ちゃんを使って何するか気になったってのが1番だけど。ビターバレーの外では流石の俺も敬語くらい使うよ?あ、でもミハイルは別。アイツ俺の事3日で魔物の溢れる森の中にリリースしやがったし。
それと、決して俺が合体したわけじゃないからな?オーヘンが男と浮気してた現場を見せただけだからな?
「とにかく、金はお前らが徴収しておけよ?そこにいるやつも出てきていいぞ」
あいつが隠してたやつが、ゆっくりと姿を俺達に見える様にしていく中で、クイーンだけはそれを驚きの表情で見ていた。
「まさか………マキナの………」
「マキナ!?こいつが機械人だってのか?」
「ああ、恐らくだが………こいつは………人型魔導機兵の一種だ……」
どうやらマキナの馬鹿どもも、俺のいない500年の間に好き勝手やり始めたらしいな。
こんな訳の分からない物を開発するとか………あ、でも見た目は結構好みかもしれません。というか好みです。確かに兵器が搭載されてますね………どこにとかは言わないけど。
その女はライトグリーンの髪の毛と、黄色の瞳を持ち、手足と肩に兵器を搭載した姿で完全に姿を現した。
全身はぴっちりとしたスーツに包まれ、所々に怪しげな機械を取り付けている。さすがに見ただけじゃどんな効果があるのか分からないし、俺の専門でもないからな………
「………クイーンさんよ、とにかく俺を本部に連れてけや。話はババアの前でしようじゃないの」
俺がそう言えば、さすがにクイーンも“千器の頼み”は断れないようで、しぶしぶながら支部に連絡を取るための魔道具を懐から出した。
これはかつて俺達が遺跡調査で発見したアーティファクトを改造した物であり、当時から機械圏の周辺の貴族や、統制協会の連中が使っていたものだ。
当然俺達はこれよりも遥かに高い効果を持つ通信手段を持っているため、これを使うことはなかった。なんせ、振動で鼓膜が痒くなる。
「………あぁ、そうだ………例のやつが………それで………………あぁ………」
ぼそぼそと話し込んでいるが、あれが魔道具だって知らない人が見たら、金属の塊に話しかける痛い霊長類だと思われるんだろうな。
何やら次第に声も大きくなり、もめ始めた感が満載なので、俺は先に機械人の女に話しかけることにした。
「イイおっぱ―――」
「テメエの脳みそは何回か丸洗いしてやらねえといけねえみてえですね」
当然のごとく俺の頭はシバかれ、それを見た機械人が若干驚いたような顔をした。
「質問。その魔族は奴隷ではないのですか」
「おお!透き通るようないい声じゃないか!それに若干抑揚がないのも個人的にグッドです」
「催促。質問に答えてください」
「あぁ、まあ一応奴隷だな。本当に一応だけど」
そう言ってカリラの顔を見れば、キッと俺を睨みつけ、警戒しているのが分かる。
と言うかどんだけ俺嫌われてるのよ。
「自己紹介なんだが、俺は大塚悠里だ。気軽にユーリさんと呼んでくれ。んで、こっちの綺麗で可愛いのがカリラ。カリラたんと呼んでぐぺっ!?」
最後まで言い切れなかったぜ畜生。
相変わらずうちの奴隷は手が早くて困っちゃうね。ほんと、直ぐにあっちゃこっちゃに手出しちゃうんだから。
その手の速さで俺の心も鷲掴みにしてくれませんかね。
「確認。ユーリさんとカリラたん、でよろしいですか?」
「ヨロシイわけねえだろってんですよ」
あきれ顔で俺のことを踏みつけるカリラたん。ぐりぐりとされるのが実は結構痛いんですよね。なんせ彼女英雄だし。
それにそれを見て助けてくれる気配のない彼女もひどいし、本当に俺の周囲の女性はどうなってるんだろうね。おじさんもうわからないよ。
「訂正、ユーリたんとカリラさん?」
「あぁ、もうめんどくせえんで好きに呼べばいいですよ。ただ、私の事は呼び捨てで構わねえです」
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