第74話 学校に一人、臭いで個人特定する奴いるよね
◇ ◇ ◇
間違いないですわ。
あの化け物共を殺したのは、あの方ですわ。
あの方からかすかに流れてきた魔物の血の臭い。ですが、あの方は昨日一度も戦っておりませんでした。
そして、今朝、あの惨状を見て、その臭いを嗅いで、全ての辻褄が合いましたわ。
昨夜の謎の眠気、以前に潜った時とは明らかに違う死の臭い。そして、ぐちゃぐちゃに潰された魔物の死体。
さらに言えば、ドラゴンのような個体がいた臭いまでしますわ。しかし、その死体はどこにもない。恐らく、あの方が持っているのでしょう。
だからこそ、あの強力な英雄を瞬く間に倒してしまった方なら、ドラゴンを含めた強力な個体の群れを意図も容易く退けたあの方なら、もしかすると何か他の秘策があるのかもしれません。
99階層までたどり着くことも、不可能ではないと思いますわ。
「大丈夫なのでしょうか……ユーリ殿はそこまで強いように見えませんでしたが」
「いいえ。あの方は強いですわ。今生きている人間の中で恐らく一番」
あの方は言っていましたわ。弱いから勝てないと。つまり、相手が強ければ、何か作戦があるのか、それともそう言う技があるのか。
「とにかく、今私たちがやることは一つですわ!」
さすがに英雄ではないジョニー様は走るのがそこまで早い訳ではないので、それに合わせて走っているので、もどかしさを感じてしまいますわ。
「スタンピードが起これば、おそらく多くの怪我人が出ます。ジョニー様が活躍するのはその時ですわ…………今は、私が活躍する番ですの!」
じれったさが限界を超えてしまいましたので、ついジョニー様を抱えて全力で街中を駆け抜けますわ。
このペースであれば、あと数分もせずギルドに戻ることができますわ。
「はぁ………はぁ………い、意外と、掛かりましたわね……」
滴ってくる汗を手の甲でぬぐいながら、ギルドの扉をあけ放ちましたが、その先に広がっていたのは、いつものわいわいと騒がしいギルドではなく、張り詰めた緊張感が、今にも弾けそうな空気のギルドでした。
「ど、どういうことですの?なにが………」
私とジョニーおじ様が入り口で立ち止まっていると、そこにギルド職員が大慌てでやってきましたわ。
額に汗をこさえ、息も私以上に乱れているように見えます。そのことが、今ギルドで起こっていることが、並々ならない事態だということを私に教えてきます。
「きっ君たちは冒険者か!?」
「そうですわ。大事な報告をしに来たのですが、誰かこの場を任されている方はいらして?」
「い、今それどころじゃないんです!街に、街に寄生型の魔物が溢れてて……ギルドに在籍している冒険者が総出で討伐に向かってますが、繁殖速度が想像以上に早く………」
「………まさかスタンピードの影響がもう……」
「すっスタンピードだって!?この期に及んでそんなことまで起ってるってのか!?」
ギルド職員がさらに顔を青ざめさせて、その場で目を回し始めたので、さすがにこの男では話しにならないと思い、私は身分を明かすことにしましたわ。
「私はヴォーグ領主の娘、ローズ・バングですの。ここの責任者の方を呼んでくださるかしら?」
そう言って私はバング家の家紋の入った短剣を職員に見せました。
それを見た職員は目の色を変えて、ギルドの奥に戻ってきましたが、これは一大事ですわね。
「大丈夫、大丈夫……」
自分に言い聞かせるように、そう唱えれば、肩にジョニーおじさまが手を置き、優し気な声色で語り掛けてくれましたわ。
「大丈夫です。ここはかつての千器様が拠点とされ、そのお仲間の方が住まわれた地。きっとあの方たちの加護が厄災を払ってくれるでしょう」
そう………ですわよね。それに、お母さまが全幅の信頼を置く、あの方もいますし。
「お待たせしました。私がビターバレー支部の支部長を務めておりますエドラ・ダワーです。詳しいお話しを伺いたいので、どうぞ2階の応接間まで」
そう言って支部長自ら案内をし始めたことに若干の驚きと、感謝を感じますわ。ビターバレーほどの都市の支部長ともなれば、権力や影響力は子爵、あるいはその上の伯爵まで届くかもしれません。我がバング家は子爵ですので、立場上は私の方が上でも、実際はエドラ様の方が強い力をお持ちということです。
その方が自ら案内をする。それほどまでに切迫した状況だということですの?
応接間について、ソファーに腰を落とせば、普段であれば紅茶の一つでも出てくるのでしょうけど、今はそれほどの余裕がないのはすぐに分かります。
早速話に入りましょう。
「この街で起こっていることは何となく聞きましたわ。それと関係があるか分からないのですが、迷宮の3階層にある大空洞に、討伐ランク50前後の魔物が大挙しておりました」
それを聞いたエドラ様は、がたんと、音を立てながら立ち上がり、オールバックに整えられた美しい青髪がひと房、眼前に垂れ下がってきましたわ。
「それは………本当ですか?もう………3階層まで?」
「えぇ、ですが“何者か”によって全滅させられておりました。恐らく階層主クラスのドラゴンまで」
「―――ばかなっ!?討伐ランク50前後と言えば深層、それも最深に近いところの魔物です!それが……全て倒されていたと!?」
「…………えぇ、そうですわ。倒され、一匹の例外もなく、まるで巨大なハンマーに叩き潰されたような死に方でしたわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます