第72話 お前不死身かっ!?とか言われてみたい
◇ ◇ ◇
しまったっ!あのバカ主人に眠らされて…………まずい。逃げ出すタイミングを完全に失ってしまった。それに、犯されでもして、もし孕んじまってたらそれこそマズい。そう思ってまず、自分の体を確認してみましたが、服を脱がされた形跡はおろか、何かされた様子さえもねえことが分かりました。
次に隣に目を向ければ、バカが腹を出して鼾をかいてやがりました。
よかった。あの眠気もただの杞憂―――っ!?
そこで気が付いた。どうして“この男が生きてやがんだ”。
私を買いやがった奴は、誰一人の例外なく皆死にやがりました。一晩持った奴なんざ今まで一人もいやしませんでした。
なのに、今までの主人の中で、おそらくかなり弱い方。護衛の力も加算すれば、圧倒的最弱のこの男が、どうして…………。
「どうして生きていやがるんですか………」
そうつぶやいても、答えは帰って来やしませんでした。
聞こえるのは、アホみたいな顔で、腹を掻く男の鼾だけ。
どうする。このままこいつを殺して逃げだしちまいますか?
そんな考えがふと頭を過った瞬間、私の寝るテントの入口が開けられちまいました。
「もし、もし!早く準備を始めて下さ………まだ寝てますの?本当にふざけた男ですわね」
そう言ったローズ様が、徐にバカ主人に近寄り、その頭を蹴飛ばしやがりました。さすがにその起こし方はやべーんじゃ、と言おうと思った時、ローズ様の足と、顔の間には、あの男の手が割り込んでおり、しっかりとケリを防ぎやがったことが分かりました。
「おお、モーニングコールにしちゃ、ちょっと激しすぎやしません?」
ひょいと起き上がり、眠気を全く感じさせない動きと表情でそう言ったバカ主人。何なんだってんですかこの男は。
「さてさて、テント畳んで、飯食ったら出発しますかね」
そう言うバカ主人の近くで、何故かローズ様が眉間に僅かに皺を寄せながら、首をかしげてますが、どうしたってんですかね。
「おらローズ。師匠の飯を作るのは弟子の仕事だ。さっさと最高級フレンチを持ってきやがれ」
「朝ジョニーおじさまが出した糞でも食ってればいいんですわ」
「せめてお前のにしてくれて…………」
「いやそもそもウンコ喰うんじゃねーですよ」
つい、ツッコミを入れてしまった。
なぜこの男が生きているのかわかんねえですが、まあ、それでも私を買ってからまだ24時間は経っちゃいねえですし、気長に待つことにしますかね。
夜を超えた主人は初めてですが、さすがに24時間はぜってえ超えねえと思いますし。
その後、なんだかんだテキパキとした動きで全員分の朝食を作り終えたバカ主人が、それを全員に配り始めやがりました。
「ってか爺さんは?」
「ジョニーおじ様は………えっと、かんぷーまさつ?とか言って上裸になり始めましたので置いてきましたわ」
「そうかそうか、ンじゃ次に脱ぎ始めたら、かんぷーじゃなくて、乾布だって教えてやりな」
「カンプーではなくカンプなんですのね。プーだとひどく間抜けな印象ですものね。それにしてもあなた、冒険者など辞めて料理人になることをお勧めしますわ」
ローズ様が言うことも一理ありやがります。というよりも、全面的に支持しちまいます。何ですかこれ。今まで食ったもンの中で一番うめえじゃねえですか。
「迷宮攻略は精神的な疲労との戦いになることも多いしな。こういうところでストレスを発散できないと意外ときついんだよ」
そんなことを言いやがりながら、琥珀色のスープを飲み干したバカ主人。
こいつはもう飯だけ作ってりゃいいンじゃねえでしょうか。
朝食を済ませ、一通りの準備も終わったり、私達は再び迷宮を攻略に向けて移動を開始しましたが、直ぐにその足を止めさせられるものを目撃しちまいました。
あの男の話しじゃ、この先には大きな空洞があり、そこではボスと呼ばれる、一回り強力な魔物が控えてやがるとか。
そこに到着した私らが目にしたのは………とてもこんな階層ではお目にかかれねえような、化け物の死骸でした。
まるで巨大な何かに潰されたような惨状であり、こんなレベルの魔物を叩き潰しちまうような怪物が、私らの寝てたすぐ横を通りやがってたなんて夢にも思えねえです。
その惨状を目撃した私、ローズ様、ジョニー様は驚愕の表情だったんですが、あの男だけはそうじゃねえみたいでした。
「うわっぐっろ!めちゃぐっろ!!!」
何やら一人で忙しい見てえですし、ほっといていいでしょう。
それにしても、話しに聞いたことがありますが、あの潰れてるやつは、討伐ランク47のドレイクマンティスじゃねえですか?それにあっちにゃ51のギラファバイカーまで居やがるじゃねえですか。いったいどうなってやがんですか……。
「これは………スタンピードですかな?しかし、まさかこれ程下層の魔物が上がってきていたとなると、これから先油断できない戦いになりそうですな………」
真剣な顔でそう語るジョニー様のとなりで、今朝見せた顔と似た顔を浮かべてやがるローズ様。頻りに周囲の臭いを嗅いでるような素振りを見せながら、それを終えると、あのバカ主人に鋭い視線を送ってやがりました。
「とりあえずだ。行けるところまで降りてみよう。この下の階層がもうやられてたら、全員でそのことをビターバレーに報告するために撤退。変わってなければ、このまま攻略を続ける。なんか異議ある人ー」
「異議ありッ!!」
すかさずローズ様が手をあげやがりました。
「はい、ローズ君どうぞ」
「早急に地上に戻るべきですわ。これほど深層の魔物が這い出してきているということは、既に途中階など一掃されていてもおかしくないですわ」
「え、だからいいんじゃん。攻略楽だよ?それにこいつら60階層くらいの連中だからね。最低でもその近くまではすいすい行けそうじゃん」
バカだ。本物のバカがここに居やがります。
これだけ深い階層の魔物が上がってきてるってことは、当然他の階層の連中も徒党を組んでやってきやがることになります。それを分からないくらいのバカなんでしょうか。
「まあいいや。んじゃローズと、爺さん、二人で迷宮の異常をギルドに報告よろしく。俺は99階層まで降りて帰ってくるから。たぶん3日………あぁ、でも“これ”があるからもっと早いか、そうだな、2日しないで戻るよ。悪いけど、カリラは同行してもらう。これは決定だから」
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