第70話 戦う少女。ふざけた男。

 日がゆっくりと傾き始め、私のギルドカードを作成した後、迷宮に向かっていきました。

 迷宮の中は洞窟の様になっており、外の時間があまり関係ないので、夜からでも潜る奴は多いみてえです。


「今日中に3階層を目指すけど、慣れるために少しゆっくり進むからそのつもりで」


 最後尾を歩きやがる糞雑魚チキンがそんなことを言いやがってます。

 テメエが言うんじゃねえですよ。


 そうこうしているうちに、私らの目の前に、人の頭ほどの大きさのコウモリ、討伐ランク3のボブバットが集団で襲い掛かってきやがりました。


「初陣ですわねっ!切り裂け 炎を纏いし 紅蓮の刃ッ!ファイアソードっ!」


 ローズ様が先頭で飛び出し、剣に纏わせた炎を横薙ぎに飛ばやがりました。その斬撃に飲み込まれるようにして、ボブバットは瞬く間に消滅しちまいました。


「この程度楽勝ですわね!」


 剣を鞘に納めながら、自慢げな顔でバカ主人を見てやがるローズ様。

 しかし、バカ主人はどこか浮かない顔をしてやがります。


「迷宮攻略は長期戦だ。こんなところでバカすか魔法打つと後が苦しいぞ。それと、灰も残らねえレベルの火力じゃ素材回収もできねえだろ」


「なっ!?そ、そう言うことはもっと早く言ってくださいまし!それにこの程度の敵の素材など売ってもたかが知れておりますわ!」


「ボブバットの素材はそのまま売れば確かに200ゴールドそこそこのカス素材だけど、皮膜を煎じてやりゃ、20グラムくらいで1300ゴールドくらいで売れる様になるんだよ。あの量から換算すれば、ザっと3万くらいにはなったな」


「たっ、たか―――」


「“たかが3万”ってか?それを奴隷や金の無い連中の為に戦ってるおっちゃんの前で言うとか、お前スゲーメンタルだな」


 あまりに突き放す様な物言いに、さすがにローズ様が肩を落としちまったのが見て取れちまいます。

 なんでこれだけ強力な魔法を使えるローズ様が、あんな避けることだけが上手い様なやつの言うことを真に受けるのか分からねえです。

 

「お前の目的は50階層に到達することだが、他の連中はそうじゃない。パーティー内での揉め事の原因にもなる。今後は気を付けろよ」


 それだけ言って、先頭を歩くローズ様に先に進むように促しているバカ主人。

 こいつは戦いもしないくせに何様のつもりだってンです。確かに言ってることは正しいって思っちまいますが、それでも言い方ってもんがありやがるでしょ。


「ローズさん。そうお気を落とさずに。迷宮攻略はまだまだ始まったばかりです。挽回のチャンスはまだまだありますよ」


 後衛からローズ様のところまで駆け寄ったジョニー様がローズ様に優しく語り掛け、ローズ様の溜飲を下げられたみてえですね。


「次は剣術だけでやってやりますわ」


「危なくなれば、私が結界を張りますからご安心を」


「えぇ!やはりジョニーおじ様は頼りになりますわ!」


 二人のやり取りを眺めていると、今度は背後から声を掛けられる。

 あのむかつく主人の声ですね。


「お前も混ざってきていいんだぞ?俺ちゃん今回は嫌われ役だし、人間ってのは共通の敵がいた方が一致団結できんだからさ」


 確かに、テメエは私の敵ですからね。と言うよりも女の敵です。

 後ろから尻辺りにやたら視線感じンですよ。


「言われるまでもねえです」


 次に出くわしやがったのは、子供のような背丈に、緑色の肌をしやがったゴブリンでした。それが3匹の集団で襲い掛かってきやがったんですが、全身を瞬く間にローズ様が細切れにしちまったので、結局私らの出番はないままでした。

 それに、その間あのバカ主人は………。


「あ、この草美味しいんだよね」

「おおっ!?こんな浅いところにこの薬草が生えてるとかラッキーだわ」

「ゴブリンのポーチ、なかなか良いもん入ってんじゃないですかい」


 なんて感じで、サボりまくりで、心の底から使えねえ奴だなっておもっちましました。


 体感時間では、もう夜も深い時間になる。そろそろあの男が死にやがる時間ですね。そんなことを思いながらも、3階層におりて、組織的な動きを見せるようになってきやがったコウモリやはゴブリン共を倒しながら、進んでいると。


「今日はこの辺りでテント張るぞー」


 と、気の抜けた声が聞こえやがりました。

 マズい。このままこいつがここにいると、他の連中まで巻き込まれる可能性がありやがる。

 そう思って、私は自らあの男と同じテントで寝ることを進言してやりました。

 当然ローズ様に猛反対されちまいましたが、それを何とか押し切り、あの男と同じテントで寝ることができちまいました。

 

「カリラたんはまだ寝ないの?」


 鳥肌がやべえです。

 今すぐぶっ殺してやりてえ衝動にかられちまいますが、何とか堪え、無視を決め込みます。


「………無視ね。まあいいけど」


 あ、あれ………な、なんでこんなに………。

 あの男の声を、聞いてやがると………なんでこんな、眠く………はっ……これってもしかして、毒じゃ……。


「―――おやすみ」


 突如訪れた強烈な眠気に抗うことも出来ず、私はその言葉を最後まで効くことなく眠りに落ちた。


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