第58話 好きな子に意地悪したくなる歳頃
「ありがとう………本当にありがとう」
瑞々しい果実のような輝かしい頭を俺達の前に下げたハゲブロが、そのごつごつとした手で涙を懸命に拭っている。
あの後、結局残党共はローズが一人残らず蹴散らし、護衛のやつ数名、盗賊数名の捕縛に成功した。
蓋を開けてみれば、死者は僅か3名だが、このタートルヘッツの街で三名もの有望な技術者が命を落としてしまったことになる。
そして、その中の一人に、俺達をカルブロの部屋まで案内してくれた女性が混ざっていたのが少し胸をチクリと刺した。
「こっちこそ。死人が出ちまったな」
ローズの力を見るため、成長を促すためとはいえ、さすがにボスっぽいのと戦わせすぎたかもしれない。
あの時間があれば、案内してくれた女性以外の二人は助かっていたかもしれないし。
彼女はカルブロを守るために勇敢にも戦い抜き、そして最初にその命を散らしてしまったという。
気が強そうな、イイ女だった。
「とにかくだ、今後の護衛依頼は相手を考えるべきだな」
恐らく身辺調査はしたんだろうが、それも通常の手段で調べられる方法。あるいは、元よりあいつらに買収されていた可能性さえある。
短期の護衛依頼は今後発注しない方が良いかもしれないな。
「あぁ、そうするよ」
「それと、斡旋したのはギルドなんだろ?そこもしっかりと責任追及しときなさいよ。俺達も護衛を頼むことがあるかもしれないし、そうなった時に今回みたいなのをつかまされたらたまったもんじゃないしな」
俺の言葉にカルブロが頷き、その後、死んじまったやつらを弔うための、ささやかな式が行われた。
これだけで終わるつもりはないとカルブロは語っていたし、遺族がいるなら、納得するまで何度でも頭を下げ続けるといっていたし、この男は信用できるかもしれないと思う反面、また騙されないか、利用されないかが心配になった。
その後は再び穏やかな毎日を送ることができた。
ローズもあれから俺に対する態度がいくらか軟化し、よくV’zの話しもしてくれるようになった。
やれ愛の爆発がいいだ、小町のエンジェルが好きだ、もう本当にめんどくさいので、5日のメリークリスマスを聞かせて黙らせたくらいだ。
まあ、領主の娘だし、見た目の年齢が近い俺は初めてできた同い年に近い友達感覚なんだろうな。
「お、ようやく見えてきたじゃねえか」
俺の声に反応したのは、隣で剣の柄をマイクに見立てて熱唱しているローズだった。
「予定よりもいくらか早い到着みたいですわね」
「まあ遺族のこともあるしな、カルブロ自身も相当責任を感じているみたいだったし、足が速くなっちまうのは仕方ないんじゃないかな」
俺なら間違いなく遅くなる派だけどね。
だって嫌だし。人に謝るとか、自分の失敗を認めることの次くらいに。
「それにしてもでけえな」
俺の記憶にあるビターバレーの三倍くらい、は盛ったから1,6倍くらいデカい。さすがに商業都市だからね。大きくなるのもうなずけますよ。
迷宮からとれる資源だけでも他の大都市に引けを取らないってのに、場所的な兼ね合いで、貿易の中継拠点になってるからより人と物が集まるし。
それに“統制協会”の支部があるのもデカいかな。
「ようやく帰ってきたのかー」
俺の当時の活動拠点であり、童女の微笑み停のあった場所。
あそこは今ではどうなっているのか、若干楽しみはある。
「旦那、あと20分もしねえでつくと思うから準備しといてくれ」
ドアの外からカルブロの声が聞こえ、ローズが荷物をまとめ始める。
え、俺ですか。荷物があると思ってんの?
「んじゃま、俺らも外で待ちますか」
「そうですわね」
久しぶりに見たビターバレーの壁は、硬質な金属と、魔法兵器が搭載され、さらにその外側には堀のようなものまで作られていた。
わくわくしながら到着を待ちつつ、道具類の最終確認と、あの剣士、ボスっぽいのから盗んでおいた剣を装備し、俺達は亀から飛び降りた。
律義に付いて来ていた馬野郎の引く馬車に乗り込めば、久しぶりに人の乗る馬車を引けると、馬野郎どもが歓喜に震えているのが分かった。
「おらぁっぁあ!!走りやがれ馬野郎!無駄に休憩ばっかしてたんだから普段の10倍の速さで走―――」
結局、御者台でカッコつけてた俺は、急加速時にぶっ飛ばされ、自分の足で走ってビターバレーの関所前で待っててくれたローズと合流したのだった。
そこから、年下の、しかも知人の娘に身柄を保証してもらい、ようやくビターバレーへ入ることができた。
踏みしめる石畳は、当時よりも遥かに美しく並べられており、見える街並みは、煉瓦造りや、木造建築、ファンタジー要素を多分に含んだ、巨大な木と家の融合など様々なものがあり、どこをみても総じて、活気にあふれている。
さすがはビターバレー。さすがは商業都市って感じだな。
「とりあえず宿を取ろう」
俺の説明をあらかじめ聞いているローズは、特に何か言うことはないようで、素直に従ってくれた。まあ流石に、宿を取り忘れて野宿したら、憲兵のお世話になったとか聞けばね。宿って昼に取っとかないと夜中じゃ部屋開いてないとかざらだから。
俺の記憶はあまりあてにならず、ローズに案内してもらいながら、宿の一室を借りることに成功した。
「お前ビターバレーは何回か来てんの?」
「はい。お母さまと二人で何度か」
マジか。だからそれなりに戦えるんだな。
ってことは魔物討伐もそれなりか。経験値はあんまり高くないみたいだし、危険なことはさせなかったのかもしれないな。
「ギルドに行く前に、一つ確かめないといけないことがある。だから迷宮に向かおう」
「迷宮にはギルドカードがないと入れませんわよ?」
「大丈夫、俺だけが知ってる裏道があるんだよ」
自信満々な俺の顔を見たローズは、しぶしぶといった感じで、文句を垂れ流しながら、道中「はぁ、無駄足ですわ」とか言いながら、それでも案内してくれた。
バカ野郎。この俺様が無駄足なんか踏むわけないだろ。ここはそもそも俺のホームグラウンドだったんだぞ?そこでなんで俺がそんなことしなくちゃならねえんだ。
「ここまででいいぞ。あとは俺が分かるから」
そこからは先頭を交代し、俺が先陣を切ってズンズン進んでいく。
ここの迷宮は地下型だからね。外からは見えないけど、明らかに大型の建物が乱立してきてるから何となくわかるよ。
迷宮の入口がアッチだから、ここを曲がって、ンでその先にあるぼろ小屋が秘密の隠し通路の入口になってて―――っ!?
「………………」
「どうしたんですの?」
「え、いや、え?何あれ」
俺のぼろ小屋があったはずの場所に、何故か白と青の巨大な建物が建っており、その建物の中央には、500年間変わらないロゴマークがある。
「?統制協会のビターバレー支部ですのよ」
「いつだ」
「いつとは?」
「一体いつあそこに統制協会のバカどもの支部が建ったんだ!!!」
「詳しくは知りませんが、お母さまがまだお父様と出会う前に大きな地震があって、その時に移設されたと聞いたことがありますわ」
終わった。ええ。完全に終わった。
俺専用の隠し通路。変人サーカスの連中をこき使って、迷宮に新しい通路を作って、そこに魔物が入れないようにした、事実上最下層までの直通通路だったのに、それが今ではバカ共の支部だと?
「神のくっそやろおおおおおおおおおおおおぉおお!!!!」
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