第24話 探し物はなんですか、見つけにくい物ですか、だと?お前、見当ついてるだろ

「俺の個性を知ってるってことは本当にあんたは一週目からいる勇者なんだろうけどさ、だけどそれが何だ。別にそれだけで親近感が湧くような豊かな感性を持っちゃいねえんだよ」


 こいつには、もう話すことはない。

 これ以上俺の計画に入ってこないでほしい。


「じゃあもう行くわ。それと、今何が起こってるかはあんたも神に聞いてるんだろ?だったら好きにすればいい。あんたの時空操作は俺なんかのしょぼい個性の数百倍は有用なんだからさ」


 時間と空間を操作する強力無比な個性。

 そして、特殊な魔眼を持ち、相手の力を見抜くとされた時空の覇者。

 絶対悪という個性を持っていた魔王を、不変の存在であるかに思えたあの魔王を瞬く間に討伐した勇者の最強。

 そんな存在なら、別に俺が何かしなくても自分の奴隷紋くらい“奴隷化”する前に戻せばどうにかなるはずだ。

 なんせ、自分の肉体であれば前後100年を操作することも可能なんだからな。


「―――ま、まってくれ!」


「なんだよ」


 今日は面倒なことが続いているから少しだけ不機嫌だ。

 つい、言葉にも棘が出ちまう。


「わ、私は、一週目の時から君のことが………」


「生憎とさ、あんたの言ってることは何も信用できねえんだよ。どうしてもっと早く俺にそのことを言わなかった。気が付いてたなら言えたはずだろ。そうすれば俺はもっと早く、もっと安全に現状を打破出来た。だけど、それを勿体ぶったのか知らねえけど、言わなかったし、隠してたのはお前だ。今更お前の何を信用しろって言うつもりだよ」


 俺は善人じゃない。

 人助けだって金がもらえるならするが、正当な報酬がもらえない、望めないなら助けない。

 そんな人間だ。

 じゃないと、俺みたいな弱者は生き残れない。それくらいこの世界は最悪の場所なんだ。

 少し油断すれば奴隷に落とされたり、毒を盛られたり、裏切られたりする。

 そうした世界で、そう簡単に信用なんてしちゃいけねえんだ。こいつは圧倒的な力があるから分からねえだろうけど、フィールドで、スラムで、戦場で、泥水を啜って、魔物の死体を貪り食うような生活をしてた俺のことなんざ理解できるはずがねえんだ。


「今の俺の目にはな、俺を利用しようとして近寄ってきた奴らと同じに映ってるよ。あんた」


 それだけ言って、この場を離れる。

 少しだけ真面目な感じになってそろそろアレルギーが出そうだ。

 心なしか蕁麻疹が出始めてやがるぜ畜生。

 

 とりあえずは、脇役君に賭けるしかないか。

 あいつはまあ、要領もいいだろうしどうにかしてくれるだろう。


 気配を消した俺は、そのまま城の内部に入り込み、蔵書庫を漁り始めた。

 勿論、手に取る本は全て俺がいなくなった後に書かれた本だ。

 この世界のこと、それと、俺がいない間に何があったのか、それをまずは知らないといけない。

 それまでは、この場所を離れるのは危険だ。


 俺の個性じゃどうにも出来ないことが必ず起こる。

 そうなった時、少しで現状を素早く理解し、対策を立てられるようにしないといけない。


 ただ、会長………あの勇者が面倒なことをしないでほしい気はする。

 あと少しで、大体のことが見えてくる。

 今日中にここの本を全て“コピー”して“処理”しなくちゃいけない。

 作業は膨大だが、どうにか間に合うはずだ。


 一日二日寝ないなんて、昔はしょっちゅうあったしな。


「ふぃー、ようやく終わりやがったな」


 マリポーサの話しでは、俺達勇者はこの蔵書庫に入ることを禁じられている。

 その理由として予想できるのが、この国無しでは俺達勇者が生活できないようにするためじゃないかと思う。だけど、俺は一回目で文字を既に覚えているし、そもそも情報処理の個性は“自分を守る”ことだけは得意分野だ。


「さて、ンじゃ“最後の”目的を果たしに行きますかね。何よりうるさいし」


 再び気配を消して、俺は蔵書庫や、使用人の住居から少し離れた場所に建てられている建物の中に忍び込むことにした。

 そこには監視が二人、気持ち程度に立たされていたが、大あくびをかましていることからも、相当油断してくれていることが分かる。

 ってか、普通に考えて“王城”の“宝物庫”に忍び込もうって奴がいると思わねえか。

 なんせ今は勇者までいるんだ。実力はどうであれ、勇者ってのはその名前だけで相当な抑止力になる。

 各国の戦力調査の項目にも“勇者の保有数”なんて物があがるくらいだしな。


 監視の二人がぺちゃくちゃと話しをしているのを横目に、俺は生体魔具で呼び出した装備の一つを使い、監視の二人には少しの間石になってもらう。


 ゴルゴースと呼ばれる、討伐ランク28の魔物の眼球を、生きているうちに摘出すると、その石化能力を有したままにすることができる。

 これを取るときは結構苦労したわ。

 まあ、人間、それも力の弱い人間にしか効かないって言う鬼畜仕様だったから、当然の事俺には効果抜群だったし、細心の注意を払って挑んで、一回失敗して石にされたっけ。

 そん時は仲間に助けてもらったんだよなー、うっわくそ懐かしい。

 何年前のことだよ。


「まあ、今じゃそんなミスはしないけどな」


 サクッと宝物庫の前に到着し、ゴルゴースの瞳を換装し、次に取り出したのは支配人の合鍵スペアキーと呼ばれるアーティファクトである。

 こいつは俺が最初に遭難した時に助けてくれた親切なロリ魔女が餞別ってんでくれた超レアアイテムだ。

 鍵の形、性質を全て無視し、“鍵”という概念に直接作用し、それを解除することができる。

 要するに、カギなら何でも開けられるってことだ。

 ただし、一日に一度、使用者以外の視線があると使えないって言う条件がある。

 なんとも“合鍵”らしい性質だぜ畜生。


「さて……迎えに来たぜ」


 宝物庫の中には、視界に収まりきらない程の財宝が眠っていたが、それらには目もくれず、少しだけ、バレないくらいポケットにねじ込んで、目的のモノの前にたどり着いた。


「本当はもっと早く取りに来たかったんだがな」


 俺の目の前にあるのは、黒い刀身に、青い刃の、金属かどうかも怪しい材質の剣だ。

 こいつは俺がこの悪辣な世界で生き残れた最も大きな理由だ。

 向こうに帰された時も勿論装備してたが、マリポーサが“千器”様の武器が宝物庫に保管されているって情報をくれて助かった。 

 本来であれば、いくらかかろうが取り戻さなきゃならない逸品だったしな。

 それに、これをここに運ぶまでに一体何人死んだ・・・んだろうな。


「相変わらずわけわかんねえ材質だよな」


 そもそも、この剣を俺達の認識でどうにかできるはずがないんだけどな。

 

「さて、他の俺の物も取り返したし、帰るとするかね」


 これでいくらかまともになった。 

 これならどうにか明日からも生きていける気がする。


 


 


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