第23話 弱者の特権、強者の不利益

 「とりあえずだ、俺は明日のフィールド探索でこの国から出ていく予定だ、あとの事は会長と、宮本に頼みたいと思ってる」


「あとの事は…………ってお前はこんな状況で私達を置いていくというのか!?」


「置いていくって言えば少し語弊があるけど、とにかく俺はいかなきゃいけない場所があるから、そこに向かうためにここを出ないといけないんだ」


「あぁ、そう言うことか。確かに金はかかる問題だからな…………」


 会長が少し考え込むようにしながら、1人でうなずいている。

 どうやら納得してくれたみたいだな。


「であれば、私も伝えておかなくてはならないことがある」

 

 少し改まった顔でそう言った会長。

 なんだか嫌な予感と、面倒ごとレーダーがビンビン反応している。


「でもまあ、嬉しかったよ、君が私のことを“覚えていてくれて”」


 ―――え、なに、え?覚えてて?は?どういうこと?


「姿形は変わろうと、それでも君とこうして会えた。これに私は運命を感じている―――と言いたいところだけど、神に願って私を君と同じ時代に送ってもらったんだからそれも当然だろう」


 神、だと? 

 今回召喚された勇者たちはあいつを女神って呼んでるはずだ。神が“無性”だってことを知っているのは、俺の時に召喚されたやつらだけのはず…………ってマジか。


「お前、まさか…………」


「そうだ、私が、私こそが、“一週目で”魔王を討伐した勇者、京独綾子改め、時空の覇者だ」


 …………え。

 ……………………えぇ?

 ………………………………えぇぇぇぇぇぇっぇええええええっ!?!?!?


「は?お前2週目だったのか!?ってか時空の勇者ってあれだろ、当時の勇者で最強の…………」


「お、覚えていなかったのか!?わ、私はてっきり君は覚えている物だと…………だ、だがまあいい!私が勇者だと知らずとも、私達はこうして結ばれたのだ。それだけでも私は満足しているよ」


「結ばれた?は?何言ってんのおたく、脳みそ腐ってんじゃね?いつどこで俺とアンタが結ばれたんだよ」


「こうして君に子種を託されたんだ、これが何よりの証拠だろう」


「こだっ!?いやいやいや!俺がしたのはただ奴隷紋の効果を切り離しただけだって!触れるだけで妊娠させるとかどんな素敵魔法だよ!」


「―――!?!?!?ひょ、ひょっとしてさっきの話はすべて……」


「奴隷紋の解除のことだわ!なんのことだと思ってたんだよ!このド淫乱!」


「―――ッ!?………………あぁ、明日死のう」


 急に眼が虚ろになって、力の無い笑みを浮かべ始めた会長。

 ってか、まさか会長があの勇者だったとは。


「ん?そう言えば俺、お前と接点なんかあったか?」


 俺の言葉に、会長は目を見開き、その直後、世界に絶望したような、世界の理不尽に押しつぶされそうな表情になった。


「…………そうだな、君ほどの男になればたまたま助けた、たった一人の少女のことなんか覚えていなくて当然だな………あぁ、大丈夫だ、別に私は気にしてないから、ほんと、気にしてないから」


 え、何も言ってないのに急にフォローし始めたよこの人、大丈夫かな。


「はは、奴隷紋の件に関しては君の“情報処理”であれば確かに可能だね。それにさっき言ったのも既に解除済みの者たち、ということか。はは、私はなんて滑稽な女なんだろうな、1人で舞い上がって浮かれて、期待して、勝手に絶望して」


「とりあえず何かめんどくさそうだから帰っていいかな」


「慰めろ!そこは!なんで目の前で落ち込んでる女を見てめんどくさそうだと思えるんだお前は!まともな感性してないんじゃないか!?」


 いきなり元気になって俺に詰め寄ってきた会長。だけどさ、俺は本当にお前のことも覚えてないし、そもそも当代最強の勇者とまで言われた女が俺程度に助けられるはずないでしょ。

 それにあの集団戦闘だってそうだ。あの話が本当なら、ただのサンダートラスト程度で動けなくなるはずないんだよ。

 こいつクラスの勇者になれば状態異常なんか一瞬で回復できるはずだしな。

 それをしなかったのは、まあよくわかんねーけどさ、でも手加減されてるみたいで何かむかつくんだわ。

 いや、手加減はしてほしいけど、あの場で俺以外の連中は本気だった。

 神崎たちもそうだし、俺のパーティーもそうだ。

 本気で勝つために必死に戦ってた。それを手加減しながら戦ってたってのが気に食わない。

 これだから強い奴は嫌いなんだ。

 俺が戦わない理由と、こいつがまともに戦わなかった理由は同じじゃない。

 俺は、自分が戦っても意味がないからこそ、指示と陽動を買って出たが、こいつはそうじゃない。

 あの場で戦ってた連中全員を内心でバカにしてたのかもしれない。

 俺が弱いせいで、こういった負の感情が溢れるのはよくわかってるけど、それでもむかつくことに変わりはない。


「とりあえず、俺がお前を助けたこととか知らねえし、俺はただ、クラスメイトで、こんな俺にも普通に接してくれるような奴を守ってやってほしいってお願いに来ただけなんだが、もういいよ。俺はお前に頼らない。別のやつを立てることにする。だからあんたはそうやって影の実力者気取ってろよ。生憎と俺には直接戦闘の力はカスほどもありゃしねえからそれが出来ねえけど、でも、たとえ力があっても俺はそんな事はしたくねえ。力を隠すことで守れないもんが出てくるなら、そんな力はないのと同じだ。いや、力がない事より質が悪ぃよ。だってそうだろ?隠してるってことは他のやつからしたら“守れたのに守らなかった”ってことでしかねえんだからさ」


 この世界、元の世界でも不変の事実である弱者の優遇。

 強者は責任を押し付けられるが、弱者はそうではない。

 守ってもらうのが当たり前で、守るのが強者の義務だ。

 だから俺みたいな弱者は声たかだかに叫ぶんだよ『どうして守ってくれなかったんだ!』って、『なぜ強いのに戦わないんだ』ってな。




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