第19話 人の話を聞かないのか、俺の話しを聞かないのか

「お前のそう言うところが…………むかつくんだよ!!」


 そう言って俺に掴みかかろうとしてきた神崎を、俺と神崎の間に滑り込んだ脇役君と藤堂が抱きかかえるようにして止めた。


「やめとけって!少し落ち着けよ!お前なんか最近変だぞ!」


「刀矢!落ち着け!こんな奴殴ったって何も意味ねえよ!」


 最初に話したのが脇役君で、次に話したのが藤堂だ。

 こんなことをしている時でも、彼らの背後では集団戦闘が繰り広げられている。

 しかしまあ、どこのパーティーも杜撰な戦い方だな、前衛は特攻、後衛は位置取りも気にせず棒立ちで詠唱とか舐めてんねこりゃ。


「こっちを見ろ!大塚!お前はいつもそうだ!お前だけが俺を見ない!お前だけがっ!お前だけがそうやって俺を他のやつと同じように扱いやがる!それが気に食わないんだ!」


 じたばたと暴れる神崎が、何か言って来るけどあんまり興味ないからスルーしよう。

 だってさ、向こうでどれだけ優秀だろうが、こっちで生き抜いてた俺からしたら、皆いい環境にいるなー程度の認識しかねえんだわ。

 それをどうこう言われたところで、どうして俺の価値観を人の勝手に決められなきゃなんねえの?って話。

 要するに、論外、話をするに値しない訳なのよ。

 だからこの二人が神崎を落ち着かせてどっかに連れていくまでこのまま放置させてもらう。


「ね、ねえアンタ大丈夫なの?刀矢めっちゃ怒ってるけど」


「え、なにが?」


「いやさ、怖くないのかなって」


「魔物でもないし、悪魔とか上位の存在でもないのに何が怖いんだ?」


 “まだ”俺の方が強い、だからこそなのかもしれないし、殺気の扱いもできてない相手に、さすがに遅れは取らないさ。


「もっと怖いの、知ってるからな」


 例えば、矛盾とかね。

 それに比べたらこいつが利用しようとしてる集団心理なんか鼻くそ取ったティッシュだわ。

 あ、でもそれって別の意味で怖い。


「強いよね、やっぱ」


「そうでもないぞ?戦う能力はこの中で最弱だ」


 俺と坂下が呑気に話しをしていると、どうやら神崎も落ち着いたのか、二人の拘束が解けている。

 

「近衛騎士さん、お願いがあります」


 あ、これ駄目だ、面倒ごとの予感がする。

 釘差しておこう。


「あいたたたた、持病の腹痛がーあいたたた、これは半日くらいトイレに籠らないとだめなやつだー」


 俺のアカデミー賞クラスの名演技を、完全にしかとした神崎がそのまま審判をしてた近衛に近寄り、何かを訴えかけている。

 耳を澄ませば、どうやら俺達と戦いたいとか言ってるぞ。

 しかしッ!俺は持病の腹痛がだな!


「その申し出、この王の名を持って許可しよう!」


 あぁ、やっぱ回避不可能だったか。

 というかどこから沸いて出たんだよランバージャック王…………。


「ありがとうございます!」


 笑顔の花を咲かせた神崎が俺の元に自信満々な顔で歩み寄り、俺をもう一度指さしながら大声で告げた。


「俺達と戦え!そしてお前が負けたら今後一切雅と会長と関わらないと誓え!」


「それは向こうが絡んできた場合はどうするんだ?」


「絶対に関わらせない!」


 おお、お前が負けた時の条件がないのは頭イカレ過ぎじゃねえのかって思うけど、これは負けた方が俺の利が多いかもしれねえぞ。

 なんせ会長と二度と関わらなくて済むみたいだしな。

 俺が考え込んでいると、不意に服の裾をひかれたので、振り返ってみると、坂下が強い視線を神崎に向けながら、小さく呟いた。


「やだよ、アタシ。そんなの絶対いやだかんね」


 珍しく人の顔を見て、心の底から、おふざけじゃなく綺麗だって思っちまった。

 それくらい、今の坂下の顔がかっこよく見えた。


「神崎君、君にそれを決める権利はないと思うんだがね、生憎と私は彼と“友人”なのでな、それを君の一存で同行されるのはハッキリ言って不愉快だ」


 会長が毅然とした態度で神崎の前に立ち、そう言った。


「神崎、俺と会長はな…………ぜんっぜん友達とかじゃないから。むしろ無条件降伏するからその女を俺に近寄らせるな」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおつかあああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!」


 会長の魂のシャウトが決まったわけだが、さすがに会長に面と向かってそう言われた神崎は少し考えた後、俺に新たな条件を提示してきた。


「わかった、じゃあ、負けたらお前が一生俺の奴隷になれ」


「…………はぁ、さっきの条件は俺のニーズにもあってたから黙っててやったんだけどさ、そりゃないわ。あぁ、マジでない、そもそもさ、お前俺の人生を掛けさせるんだから、お前も同等の物を掛けろよな、じゃないと対等フェアじゃないだろ?お前が俺に一生奴隷になれってんならさ、お前は何を掛ける?勇者として多くの期待を集めている男の腕か?それとも脚か?あぁ、勘違いするなよ、たかだか腕の一本で俺の人生をめちゃくちゃにさせるわけないからな。そうだな、お前は利き手を失ったまま戦場に立ち続けろよ、その条件ならお前の条件を認めてやるよ」


 さすがに、今のは我慢が出来なかった。 

 こいつは奴隷なんて軽々しく口にしてやがるが、その実、この世界の奴隷がどんなものかを知らない。

 勿論中には職業奴隷なんかもいるが、そうじゃないやつの方が多い。

 無賃金で、劣悪な労働環境、強引な夜伽、それだけじゃない。主人の命令に絶対に逆らえないことをいいことに、解剖するバカがいたり、鞭で打って遊ぶバカがいたり、毒を飲ませて苦しむ姿を観察するキチガイがいたりするんだよ。お前はそれになれって言ったんだ。

 

「覚悟しろ、この場で死んでもいいって覚悟をな」


 当然そんなもの、俺は一週目から―――してるわけねえんだけどねぇぇぇぇ!!!

 ぶっちゃけ奴隷紋とか片手間で解除できますから、実質僕ノーリスクっす!はい!


「そ、そんなことが許されると思ってるのか!俺は勇者の個性を持つ、本当の勇者なんだ!その俺がお前と対等なはずがないだろ!」


「―――そうじゃ、よくぞ言った神崎殿よ」


 ちっ、あの狸じじいが。




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