第8話 強かな女程、引きに弱い

 再び怒りを露わにした彼女を放置し、俺は立ち上がる。

 話してやるのも面倒だしな。


「神は祈っても答えちゃくんねえし、願っても聞き届けやしねえ。縋ろうとも諂おうとも、結局は自分の力でどうにかするしかねえんだよ」


 協力する気ではいたけど、まあ今のまま協力したら俺の目的も、そしてあいつらの目的も全部だめになっちまうしな。

 少し頭冷やせやって感じです。

 それと、顔がすごく痛いので冷やさないとな。


「どこに行くんですか」


「お前に殴られた顔が痛すぎるから冷やしに行くんだよ!?」


「え、ここってなんだかんだ言いつつ協力して最終的には上手くまとめてくれるところではないんですか?」


 この女ぁ本気で言ってやがるぜ!?

 気は確かか?俺みたいな糞雑魚一般人がどうこうできるレベルじゃありません。

 そう言う面倒ごとは担当の方主人公達に持って行ってください。


 まあ、俺も準備が整って、余裕があれば手伝ってやるし、奴隷紋の一方的な解除なんか俺にしかできないしな。

 そこだけはどうにかしてやってもいいと思う。


「とりあえず何か冷やすもん無いか…………あ、そう言えばアイシクルタートルの血石がアイテムボックスに入ってたな」


 生体魔具を起動させ、即座に俺はアイシクルタートルの血石を手元に出し、それを頬に当てる。

 いやぁ、このひんやり感が絶妙で最高ですわ。

 夏場とかこれをタオルに巻いて首に当てとくだけで快適だし。


「アイシクルタートルッ!?討伐ランク48のあの魔物ですか!?」


「は?討伐ランク?何それ」


 俺が知らない間に変なランクが決まっているらしいな。

 そう言えば俺、こいつから常識聞き出すつもりだったんだった。


「とりあえず討伐ランクって何さ」


「…………討伐ランクはギルド協会と統制協会が、かつての千器様の手記を元に作られたランクです。千器様というのは千の武器を操り、数々の魔物を倒された“民の為の”勇者様です。かの勇者様は魔王討伐に貢献こそされませんでしたが、自らの足で様々な場所に赴き、その場を豊かにされた偉大な方だったと聞かされています」


「あ、あぁ大丈夫、せんきね、うん、よく知ってるよほんと」


 ちなみに千器ってそんなにカッコイイ由来じゃないんだよね…………千個の武器を持ってようやく一人前、ってのが由来だし、むしろそれでギルドで散々バカにされてたし。


「やはり千器様を御存じなんですか、あなたのような軽薄な男でもその名を知っているとはさすがです千器様」


「ひょっとするとその、千器様?ってのはどうしようもないヘタレだったかもしれないぞ?そもそも千個も武器を持ってないと冒険できない時点でヘタレじゃん」


 なんだか恥ずかしい気分になるし、明らかに美化された話なのでここいらで少し軌道を変えさせてほしい。


「そんなことはありません、あなたは千器様を知っているようで何もわかっていません」


「つってもそいつが活動してたのなんて500年前だろ、噂に尾ひれがついてるだけだって」


「あなた、それ以上千器様を侮辱すると首を撥ねますよ?」


 いきなりバイオレンスだなおい。

 さっきよりもマジギレじゃねえか…………。


「ま、まあそんなことよりだ、この世界の常識に付いて話を聞かせてくれよ。もともとそのつもりでお前の奴隷紋を解除したわけだしさ」


 奴隷紋によって発生していた命令を読み取ったが、何故かそこに俺達に常識や文字などの、この世界の文化を教えることを禁じるという物があった。

 まあ普通は奴隷紋を見ただけじゃ分からないんだけど、俺くらいのベテランになるとわかっちまうもんなんだ。


 その後、不貞腐れたような顔をしているマリポーサから様々な常識を聞き、自分の中にある常識とすり合わせていった。

 その結果わかったのが、この国やべえってことと、俺の残したものがまだほとんど手が付けられていないかもしれないということだった。


 マリポーサとの話が終わり、彼女が部屋を出ていくのを見送った後、俺は1人、今後についてどうするかを考えていた。

 前回の召喚は目的のある召喚であり、その召喚陣には帰還の条件がしっかりと組み込まれていた。

 しかし、今回の召喚の陣にはそれが見られなかった。

 恐らく改造した時にそこら辺を消したんだろう。

 そうなれば、俺は元の世界に帰ることができないということでまず間違いないだろう。

 であれば、何よりも早く俺は安全を確保し、貯金を溜め、安心安全な老後に向けて動き始めなくてはならない。

 幸いなことに俺の個性は金を稼ぐことはそれなりに得意だし、もう一度ギルドに登録し、比較的安全な迷宮や遺跡なんかの調査を行ってもいいかもしれない。

 

「こんな危険な世界に永住が決まったってだけでうんざりなのに、明日には奴隷にされるのか」


 そう、明日は訓練と称して俺達は王に呼び出されている。まあ当然のことだが。

 しかし、あの人当たりの良さそうな王がそんなことを考えているなんてあいつらは気が付かないだろうな。







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