第81話:狙った獲物は逃がさないのにゃ!【前篇】 (ゼフィEND )
遅くなりすみませんでした
***
ロイドは冒険者として再び活躍すべく、荒くれ者が集う城塞都市ソロモンへ向かってゆく。
堅牢な城門に囲われ、あらゆる品物が活発に取引されている聖王国の経済の中心地。故に人の流入も活発で、街は常に混沌としている。
第二の都市アルビオン、学術都市ティータンズと比較しても、治安はお世辞にも良いとは言えなかった。
それでもロイドはこの街を選んだのは、ひとえに冒険者として今一度初心へ帰り、一旗揚げる為だった。そしてそうしたロイドの目論見は見事的中した。
おりしも、魔神皇は聖王国の戦力が“魔法”に偏っていると見抜いた。
そこで魔神皇は戦力の中心を魔法耐性の強い巨人“エレメンタルジン”に据え、聖王国へ攻撃を開始したのである。
エレメンタルジンの侵攻により数多の勇者や魔法使いは戦力にならず、役立たずの烙印を押された。代わりにロイドのような物理攻撃に特化した冒険者の時代が巡ってきた。
かつてAランク格闘家の少女:ゼフィ=リバモワが評価した通り、ロイドの剣術は魔法という要素を覗けば、Sランクに匹敵するほどの力を誇っていた。
彼はソロモンを拠点に目覚ましい活躍を上げ、そして彼の下へは同じように燻っていた荒くれの冒険者、特に戦闘民族ビムガンが次々と集う。
これが後の歴史に名を残す【雷光烈火団】の誕生であるが、これはまた別の話である。
ロイドは雷光烈火団の団長として、日々戦いに明け暮れている。
そんなある日のこと、
「兄貴! そういや今度、例の【三人の乙女】ってのがソロモンへ来るらしいですぜ!」
ビムガンの手下の話にロイドは内心安堵していた。
鎚の聖勇者オーキス=メイガ―ビーム
聖王国史上初のSランク格闘家ゼフィ=リバモワ
そしてSSランク魔法使いを改め、大魔法使いリンカ=ラビアン
かつてロイドと共に東の魔女を討伐した少女たち【三人の乙女】は、魔神皇の脅威から聖王国を、世界を救うために奔走している。かつてその一党を率いたのはロイドであるが、それは歴史の闇に葬られてしまっていた。
しかしこうして噂が飛んでくるということは、三人は、リンカは今も無事でいるという証拠。喜ぶべきことである。
「兄貴、どうしたんですかい、にやにやしちまって? もしかしてアレですかい、兄貴も若い女には目がないってことですかい?」
「ああ。まぁな……よし出陣だ! 今日も稼がせて貰うとしよう」
「がってん!」
●●●
城塞都市ソロモンの堅牢な城壁を見上げる三人の少女の姿があった。
「フラン・ケン・ジルヴァ―ナが次に狙ってるのがここなんだね?」
オリハルコン製の煌びやかな鎧に身を包み、聖王国の秘宝の一つ聖鎚ハシュマルを手にした鎚の聖勇者オーキスは、城壁を見上げてそう呟く。
「うん。もう地脈にまでフランの魔力が走ってるよ。早く何とかしないと大変なことになる」
大魔法使いリンカ=ラビアンは青い瞳を険しく細めながら、地面から手を離して立ち上がる。
「すんすん、すんすん」
そんな今にでも戦い出せそうなオーキスとリンカの脇で、ゼフィは城塞として向けて、何かの匂いを感じ取っている雰囲気だった。そんなゼフィの様子を見て、オーキスは首を傾げる。
「ゼフィ、どしたの?」
「匂うにゃ」
「匂う? まぁ、確かにここってちょっと硫黄臭いけど……」
「違うにゃ! おっちゃんの、ロイドの匂いがするにゃ!」
ゼフィの言葉を聞き、オーキスとリンカは言葉を詰まらせた。
特にリンカは先ほどまでの凛然とした表情に陰が差す。
「雷光烈火団って組織があるにゃけど、そこの団長がロイドらしいって噂にゃ。一度会ってみるかにゃ?」
ゼフィは俯き加減のリンカへ問いかける。しかし彼女からの返答はない。
「リンカ?」
「そう、なんだ……ここにロイドさんが……」
「どうするにゃ?」
ゼフィは更に問いを投げかける。
やがて顔を上げたリンカは苦笑いを浮かべて、首を横へ振った。
「ゼフィ、気を使ってくれてありがとう。でもここには遊びに来たわけじゃないから。ソロモンのみんなを救うためにも急がないといけないから……」
「本当にいいにゃね?」
「……うん」
リンカはしっかりと頷いた。
それを見届けたゼフィは踵を返し、再びソロモンの城塞を見上げた。
「オーちゃん、ちょっと僕に時間くれにゃ! 作戦開始までには必ず戻るにゃ!」
「ちょ、ちょっとゼフィ!?」
オーキスの声を振り切って、ゼフィは走り出す。彼女の姿はあっという間に城塞都市の中へと消えて行った。
「まったくもうあの子は……ねぇ、リンカ、本当に良いの? ゼフィはたぶん……」
「ありがとうオーキス。私、大丈夫だから。もう良いから。諦めたから。これがロイドさんと私の選択だから……これが世界にとっても、私たちにとっても最良の選択の筈だから……」
「リンカ……」
「さっ、行こう!」
【後編へ続く】
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