第3話:万年Dランク冒険者の彼と怪しげな魔法使いの少女


――かつて、自分もいつかはああなれると思っていた。



 仲間とパーティーを組んで、武功を上げて、Sランクとなる。

いつかは特務パーティーの”勇者”に任命されて、みんなの賞賛を集めて、可愛い嫁さんを何人も貰って、大きな家に住んで――


 だけど今の彼は、万年Dランク。長年冒険者という風来坊を続けていたため帰る家はない。

当然ながら冒険者家業を早々に辞めて、安定した定職に就いた同年代の多くのように帰りを待ってくれる家族も無かった。


 ならば貧しいのか。

明日の喰うにも困る身分なのか――そうでもない。


 殆ど収入の無いFランク、それに毛が生えた程度のEランクならば、あっさりと夢を捨てることができただろう。

盗賊まがいな無頼漢となって、自由に暴れまわる覚悟だって決まるというもの。


 しかしロイドは”Dランク”

それなりに依頼クエストをこなせば、食い扶持を繋ぐことぐらいはできる。


 一端に”冒険者”と名乗ることはできる。

何とか生き抜くことはできる。

だけどそれが精いっぱいで、それ以上を望むのは難しい。


 何度も立場の向上を考えて、Cランクへの昇段試験は受けた。でもその度に落第し、嫌気がさして、ここ何年かは受験の申し込みすらしていない。

それよりも明日の喰いぶちを繋ぐのに必死で、Cランクへの昇格など夢のまた夢。

 しかも仕事パーティーは今さっき、クビになったばかり。

Cランクへの昇格よりも、明日からの糧をどうするかが最重要であった。



 最貧ではない。底辺でもない。だけど今の立場からの向上を望むのは難しい。



 それなりの絶望と、無に近い希望――それが三十代半ばを目前に控え、未だDランクで冒険者を続けているロイドの現状だった。



 それでもロイドは長年冒険者として生き残って来たベテランだった。

ベテランとしてのプライドだけはあった。

だからこそ、彼はそのちっぽけなプライドにかけてステイから貰った”転移魔法の巻物スクロール”を使わず迷宮を駆け上がった。

何度も危険な目にあいながらも、自力で迷宮から脱出を果たした。



 迷宮の外は麗らかな陽光に照らし出されていた。丁度昼頃なのだろう。

天の中央に昇った昼の神は燦々と輝きを降らせて、広大な森の枝葉を青々しく燃えがらせている。


 全力で迷宮を開けあがったため流石に疲労が困憊している。

 ロイドは近くの大樹へ歩み寄ると背中を預け、ようやく煙草を口にできた。

煙が燻り、香ばしい匂いが疲弊した心を優しく解きほぐす。

 数時間ぶりの喫煙は、特有の安堵感と、酒酔いに似たふらつきを覚えさせる。


「さて、この先どうするかな……」


 一服をして落ち着くと、すぐさま現実が口からこぼれ出た。


 次の宛は当然ながら無い。


 暫くはステイからの報酬で何とかなるが、そううかうかとはしていられない。

しかし疲弊した心と身体は、すぐに動き出すことを頑なに拒んでいる。


 ならば今夜くらいは贅沢をしてみようか。幸い今日は金がある。

美味い酒を飲んで、美味いものを食って……馴染みの高級娼館へ行って、いつもより長めに馴染みの女に慰めて貰うのも悪くはない。


 とりあえずはそうしよう。明日のことは明日考えよう。

 そう思い立ったロイドは殆ど燃え尽きた煙草をもみ消し、立ち上がる。


「誰だ!」


 ロイドは瞬時に神経を冒険者のソレに切り替えた。

腰にぶら下げた数打剣の柄を握りしめ、いつでも抜けよう身構える。

そんな彼の目の前に現れたのは、まだあどけなさの残る、”女の魔法使い”だった。



 まるで上等なサファイヤを思わせる、煌めきを帯びた瞳。

ボブにカットされた収穫直前の麦畑を思わせる黄金の髪。

目鼻立ちもどこか丸みを帯びていて、綺麗だが幼い印象だった。

 程よい大きさの胸を覆う真新しい胸当てに、華奢な肩からかかっている立派な仕立てのマント。ブーツとグローブに縫付けられている鈍色の金属は、恐らくミスリル製で魔力の増強を図っているらしい

 手には先端に真っ赤な精霊石を頂いた、魔法の杖が握られていて、突然現われた少女が”魔法使い”であることを如実に表している。


「なんだ、同業者か。何か用か?」


 警戒心を解いたロイドは体から力を抜いてぶっきら棒に言い放つ。

魔法使いはほっとした様子で程よい大きさの胸を撫でおろした。

そして静かに杖を置き、ずっと握りしめていた羊皮紙を開いて見せる。



【ワタシヲ、マチノキョウカイ、マデ、ツレテッテクダサイ。オレイ、タクサン、シマス】



 少女は程なくそんな文字か書かれた羊皮紙を青々とした下生に置いた。

あたふたとした様子で肩からかけた皮のポシェットを漁り、虹色に輝く鉄片を出しだしてくる。


 魔法動体で、希少金属であるオリハルコンの欠片。

一つで100,000Gはくだらないものが、差し出される。


 どうやらこれが”御礼の品”らしい。

 明らかに怪しかった。



*続きが気になる、面白そうなど、思って頂けましたら是非フォローや★★★評価などをよろしくお願いいたします! 


また連載中の関連作【仲間のために【状態異常耐性】を手に入れたが追い出されてしまったEランク冒険者、危険度SSの魔物アルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる】も併せてよろしくお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る