第44話 静さんの話2
「何で、ですか?」
「うん。どうして人犬になったのかなって。
だってさ。僕もお爺ちゃん
あんまし僕、人犬してる仔の気持ちが判んなくて。
例えばさ。可愛がっている積りでいじめちゃってたら目も当てられないもん」
すると
「そうですね。坊ちゃんは人犬を飼う側の人間で、飼われる側からの事などご存知無くて当然ですね。
私の事は最初からお話ししましょう」
そう言って、静さんは話し始めた。
戦争が終わって間もない頃。駅や闇市と言って物不足食糧不足の時代なのに、お金を出せば何でも買える市場があって、気が付いたらガキ大将のあんちゃん達と、マンホールの下で生活していました。
当時、同じような子は浮浪児と呼ばれていたんだそうですが。私はあまりにも小さかったので、詳しい事はよく覚えておりません。
ある日。浮浪児狩りと言うものがあって、あんちゃんは逃げたんですが、私と何人かは掴まってしましました。それで監獄みたいなところに入れられて、毎日沢山のDDTと言うお薬を、粉塗れになるまで吹きかけられたんです。
そこで何日過ごしたのか覚えていません。ある日、そんな監獄みたいな場所に私を迎えに来たおじさんが居たんです。
私を連れて帰ったおじさんは、家に着くと庭に連れて行き、
「ペス。お前は今日から、私のわんちゃんに成ったんだよ」
と言って服を全部、パンツまで剥ぎ取り。
忘れもしません、
「もう、こんな物は要らないな」
と言いながら、釘で穴を開けた一斗缶に入れて焼いてしまいました。
そしてすっぽんぽんの私に、
「身体を洗うぞ。いやならこのまま庭に繋ぐ。だが大人しくされるがままにしているんなら、うちの中に入れて遣ろう」
と言ったのです。
最初にバリカンで頭を刈られ、男の子みたいに丸坊主にされ、さらに剃刀で頭をツルツルにされました。
まだ自分が女の子だと言う意識はあまり無かったのですが、長かった髪の毛が無くなって、随分心細く感じたものです。
その後。タライで何度も洗われて、手ぬぐいで痛くなるほど擦られました。
前の割れ目もお尻の穴も、おじさんに指で広げられて奥まで洗われました。
お湯を使ってくれたので、寒くはありませんでしたが。身体も頭も石鹸で擦られ、目に入った石鹸が痛くて泣いたことを覚えています。
やっと終わって身体を拭かれ、私は土蔵に連れて行かれました。
奥に畳の敷かれた牢屋があって、革の首輪を付けられた私は裸ん坊のままそこに放り込まれたのです。
「ちゃんといい仔にして可愛い犬になれ。そうすれば時期が来たら学校へ通わせてやる」
結果から言うと、その言葉を飼い主さんはちゃんと守ってくれました。
けれども学校に上がるまでは、土蔵の檻が私の世界全てでした。
いつでも飲めるように牢屋の中に水瓶が置かれた他は、家具らしいものは一つも無く。
隅に置かれた砂箱が私のお便所でした。
朝と晩に出されるカボチャや大根の方が多い味噌雑炊が私の餌で、時折檻の中に入って来てくれたおじさんと、わんことして遊ぶのが楽しみでした。
言われるままにいぬとして吼え、お手やちんちんなどの芸をすると、ご褒美にお菓子を少し食べさて貰えるんです。
「くぅ~ん」
と啼いて甘えると、いつでも抱っこしてくれたり身体を撫でてくれたりしました。
時にはおじさんから、
「こっちへ来い。痛い事をするぞ。だけど我慢出来たらこれを遣る」
飴玉を見せびらかされた私は、喜んで自分から痛い事をされに行ったものです。
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