第43話 静さんの話1

「坊ちゃんは、どこで人犬の事をお知りに為ったのですか?」


 お手伝いさんのしずさんが聞く。


「お爺ちゃんの所。昔、人犬を飼ってたんだって。それにね、お爺ちゃんには、今も人犬を飼ってる人が遊びに来るんだ」


「実際に、人犬を見たんですか?」


「うん。懐っこくて甘えん坊で、とっても可愛い仔だったよ。

 最近人犬になった仔でね。仕草や吠え声はまだまだだったけど」


「そうですか……。でしたら全部お話ししても大丈夫ですね。


 先ず、傷物うんぬんのお話ですが。あれは娘の勘違いです。

 あの歳で本当に傷物になるようなことをされて居たら、親兄弟以外の男の人にまともに近づけるものではありませんよ」


「良かったぁ。じゃあどうして?」


「昔、と言っても坊ちゃんが生まれた頃までですが。実は私は犬でした。

 ちっちゃな子供の頃からあるおうちで、人犬として飼われて育ったのです。

 その頃には世の中が変わっておりましたので、私もちゃんと小学・中学と学校へ通わせて頂きました。


 中学を卒業する時です。

 ご主人様に『高等学校へ行きたいなら二十四まで人犬を続けて貰うが、お勤めに出るなら人犬を辞めさせてやる。親代わりに保証人になってやるがどうする?』と聞かれ、お勤めに出る事にしました。

 そこで死んだ夫と出会い十六歳で結婚、三年後には久子に恵まれ、犬っころにしては人並みの幸せな時間を過ごしました。


 けれども三年前。久子ひさこが三歳の時、夫が事故で亡くなり。親兄弟親戚など頼る人が居なかった私は、元のご主人様に、『娘共々、人犬として飼って下さい』と泣き付いたんです。


 けれども、ご主人様は『一度親代わりに成ると言った以上、お前達を人犬として飼う事は出来ん』。

 こう仰って、住み込みで働けるお屋敷を紹介して頂いたのです。


 住み込みとなったお屋敷も、昔は人犬を飼っていたおうちでした。

 ところで、人犬を飼っていたり飼ったことがあるおうち同士には繋がりがあって、当時中二の坊ちゃまのお友達の家も、人犬を飼う関係者でした。

 そして当に坊ちゃまのお友達こそ、私が人犬だった頃を知っている方だったのです。


 久子は坊ちゃまのお友達に、人犬の子と囃し立てられ泣かされました。そしてその上、服を脱がされイタズラをされました。

 遣る事はお医者さんごっこ程度でしたので、大事には至りませんでしたが。久子へのイタズラは段々酷くなるばかり。私はそのお屋敷に居られなくなりました。

 それでまた、ご主人様にお頼みして、ここのおうちに移ったのです。


 まだ学校にも上がって居ないのに。久子は自分が傷物になっているから、もうお嫁に行けない。

 そう思い込んだままなのです。


 幸いここの坊ちゃまには、お風呂に入れて貰ったり、おんぶや抱っこをして貰ったり、妹のように久子を可愛がって頂いています。

 ただ。それで懐いた久子は、傷物だからお嫁に行けないと思い込んでいる久子は。ここの坊ちゃまの人犬に成りたい。そう願うようになったのです。


 久子のっての願いですから、お勉強の気晴らしに多少のエッチなことをなされても問題無い。

 パンツを降ろしても、すっぽんぽんにしても。久子が嫌がらない限り好きなようにおもちゃにして下さい。

 そう坊ちゃまには告げてあるのですが。なにぶん生真面目な方でして」


 うーん。静さんってずっと人犬で飼われていたから、普通の人とは感覚が違うんだ。

 そんな静さんの事。僕は詳しく知りたくなった。


「ねー。そもそも何で、静さんは人犬として飼われていたの?」

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