第39話 おんぶされて
身体が不安定でいつおっことされても不思議じゃない。お兄さんは、抱っこがかなり下手だった。
しかも片手でアドの鎖を握っているもんだから、うわっ、お兄さん!
僕は泣きそうな目でお兄さんを睨んだ。
「指……。お尻の穴に食い込んでる」
わざと遣って居るんじゃなければ、どう見てもお兄さん抱っこし慣れていない。
持ち方が悪いので、支える手の指が指浣腸のような形に為っちゃった。
ズボンとパンツ。二つの布越しだからまだ良かったけれど、もしもお尻丸出しのわんちゃんの時ならプスっとお尻の穴に刺さっていたに違いない。
「ごめんごめん。しかし難しいもんだね。みんな簡単に抱っこしているのに」
遣った方は痛くないから嫌んなるくらい軽いノリ。
いつもこんなに痛いんなら。エッチな本の挿絵みたいにお尻の穴に尻尾を付けるなんて無理。
ましてさっき聞いた忍者の名前みたいなことは絶対無理。
なんとかお尻の穴に食い込む持ち方は止めて貰ったけれど。
「お兄さんの言ってる子ってほんとのちっちゃい子達でしょ?
僕は二年生だからちっちゃい子より重たいもん。だから抱っこじゃなくておんぶにして」
それなら僕が確りしがみ付いていればいい。僕は一旦降ろして貰い、改めて背中に飛びついた。
「こりゃ当におんぶお化けだな」
広い背中。やっぱりこっちの方が安定する。
「あれ? 柿崎君?」
呼ばれてそっちに顔を向けると、お家がもっと神社寄りの筈の安倍さんと出くわした。
まだ家に帰ってないらしく、ランドセルを
「安倍さん。まだお
「うん。お尻ぶつけた富樫さんをお
「アドの散歩でちょっとね」
「おんぶされてるって、怪我したの?」
「あ、いや。まぁ……そんなとこ。恥ずかしいから
違うけど、ここはそう言う事にして置こう。
「しょうがないなぁ。またなんかドジったんだね」
大事無いと判って、くすりと笑う安倍さん。
本当にいい子だよ安倍さんは。僕と同じくらいの背丈なのに、体重は僕の二人分って言うのを除けば非の打ちどころの無い女の子だ。
バス通りの歩道を遠くに見える神社の丘に向かって歩いて行く安倍さんを見送って、僕はお兄さんの背中の上。
「お友達?」
「うん。いい子でしょ?」
「ちょっとグラマー過ぎるけれどね」
「お兄さんもそう思う?」
そんなやり取りをしながら。お兄さんはアドに合わせて歩いて行く。アドは安倍さんが遣って来た道を進んで行った。
アドも僕の時みたいに、家と家との隙間とか、バラ線が張られている向うとか、
「僕の時と全然違う」
「多分君と居る時のアドは、自分がボスの積りなんだろう。
その代わり、君はアドから見たら護ってやらなきゃいけない子なんだろうね」
お爺さんと似たような事を言うお兄さん。
そのまま道沿いに僕が学校へ行く道に出て、アドはバスターミナルの所で学校の方に曲がる。
「何年ぶりだろうな? 卒業してから通ってないよ」
ぼそりと言ったので、
「お兄さんもここの小学校だったの?」
「ああ。六年生の時に開校九十周年の式典があったんだよ」
「九十周年?」
「明治五年に出来た学校だからね。君が四年生の年。札幌オリンピックが開かれる年に開校百年になる。
それに合わせて今度創る体育館は、今みたいな木造じゃなくて鉄筋コンクリートだ。床はオリンピック会場と同じ物になるって聞いているよ。
今の運動場の所に建てるそうだからね。体育や遊ぶのはちょっと手狭になっちゃうかな」
「へー」
僕全然知らなかった。
「式典は高学年だから。多分、君も開校百年の式典に出れると思うよ」
「でも。二年も先の話でしょ?」
「たった二年の話だよ」
僕にはその二年が、とても先の未来に思えた。
アドが散歩に満足して、お爺さんの家の近くまで戻って来た。
結局僕はお兄さんにおんぶして貰ったまま戻って来ちゃったよ。
「この後
「今日は泥んこにならなかったから、お風呂入らなくてもいいよね? アドを返したら直ぐ行けるよ。
でもお兄さん。お勉強はいいの?」
お手伝いさんが掛かると言った一時間は、とうに過ぎていた。
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