第21話 犬として飼われると言うこと
日曜日。興味がないなら来るなとお爺さんに言われた日。
僕は少し早起きしてお爺さんの家に行った。
「来たか。
間も無く客が来るのでな。来た以上は坊主に
お爺さんは僕の覚悟を聞いた。
「うん」
色々考えたけれど。怖さよりも興味の方が大きかったんだ。
「秘密を守れば大丈夫なんでしょう?」
「そうだ。何も坊主の安全の為だけでは無いぞ」
「他にもあるの?」
「売られた子は今、飼い主の家では人犬と言う種類の犬として扱われておる。しかし外では普通の子として学校に通っておる。世間並みの靴や服を与えられてな。
学校では犬の餌ではのうて給食が食べられる。
当番などが終われば、遊んだり寄り道せず帰らねばならぬが、お習いをしている子など放課後遊べない子は普通に居る。
犬として飼われていても、今は昔と違うのだ。外では同じ年頃の普通の子供と何も変わらない。
それを、こいつは人犬でございとバラしてしまってはどうなる?
もう二度と学校になんぞ通えなくなってしまうのだぞ。
もしもその子がこの先ずっと、鎖に繋がれ檻の中で生きて行かねばならないとしたら。
バラした奴はとんでもない
「うーん」
唸った僕は、
「そうだね。学校行けなくなるのは可哀想だね」
と納得した。
「それから今日は二つ約束だ」
「なぁに?」
「一つ。今日は坊主の犬は無しだ。今日に限っては、お前を犬として扱うなら相当酷い目に遭わせねばならなくなる」
「例えば?」
「少しでも犬らしくない事をすれば、竹の物差しで打ち据えられる」
「うわ!」
そんなの御免だよ。
「ご飯ではのうて、残飯に味噌汁の余りをぶっ掛けた犬の餌を食わねぱならん。
ましな食い物は下から放り投げて与えるから、地面に落ちぬ前に口で受け取らねばならん」
「無理無理。そんな芸当僕出来ないよ」
引いてしまった僕に追い打ちを掛けるようにお爺さんは言う。
「落としたら、もちろん地面に口を付けて食べるのだ。
与えた餌を無駄にする不埒な犬は、その場で打ち据え性根に刻む。
お前に地面に放り投げられた泥の混じった餌を口に出来るかな?」
僕の顔が引きつって行く。
「しかも芸を上手くやり遂げねば、何も食わしては貰えん。もちろんおやつなんぞは無しだ」
黙って僕を見る、いつになく怖いお爺さんの目。
「……判った。今日は犬は無しだね」
「坊主。こんなこと位で泣くな」
涙で滲むお爺さんの顔。
「だって……」
普段は見ない怖い顔のお爺さんに、背筋が寒くなるほど怖い事を言われたんだから。
「二つ目。客が連れて来る子は、人間の姿をしていても人間ではない。人犬と言う種類の犬の仔だ。
可愛そうに思っても、決して人間の子供みたいに扱うなよ」
言われて咄嗟に僕は訊いた。
「僕、いじめっ子しなきゃ駄目なの?」
お爺さんは首を振り、
「いいや。他所様の飼っている仔犬として普通に可愛がってやれば良い」
と教えてくれる。
「懐けば撫でたり抱いてやり、芸をしたり言う事を聞けば誉め、ぐずぐずするなら叱り付け、反抗するなら罰を与えるのだ。
その子に人犬の躾を始めたのは坊主の犬ごっこと大して時期は変わらん。自分が出来る出来ないを物差しに、誉めたり叱ったりするが良い。
ただな。あちらは
「嫌々なの?」
「ああ。それが売られると言う事だ」
お爺さんは身体を強張らせる僕を抱き寄せ、背中をポンポンと叩く。
そして言い聞かせるように僕の耳に囁いた。
「人犬を飼おうとする者にとって。好んで犬をする坊主がどれだけ好ましいことか。
皆愛犬家ゆえ、いじめる為に飼うものはおらん。犬の自覚が不十分だから厳しく躾けるのだ。
多少出来の悪い駄犬であっても、犬として甘える仔は優しくされる。
丁度、この前四つ足で歩けなくなった坊主がせがんだ時に、歩けと竹刀で打ちもせず、抱っこして運んでやったようにな」
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