第20話 嘘でも楽しい

 お散歩と言っても、アドに合わせてするもんだから。あちこち僕は引っ張り回される。

 お陰で僕の住んでるこの街の隅から隅まで探険隊完了。


 お寺の白い花の咲く垣根の隙から境内に抜ける犬の道。

 木工場の資材置き場の材木を縫って児童公園に抜ける道。

 お餅屋さんのビルとお菓子屋さんのビルの隙間を通る時、漏れて来る草餅の香りに唾を飲む。


 お風呂屋さんを過ぎ、パチンコ屋の前の横断歩道を渡って商店街。自動車の整備場の横を曲がると、畑だらけの道を進んで、右手に鳩が沢山集まって来るお豆腐屋さんの前に出た。

 その向かいの児童公園。ここが最近、アドのお気に入りの場所だ。

 ここはもう。隣の小学校の区域だけれど、アドの散歩だから問題ない。


 いつも通り鎖を外して上げると、アドは安全な公園内を全部使って駆けて遊ぶ。

 その間僕も好きに遊ぶ。コンクリートの築山の滑り台を、鎖を掴んで登って行くと二階の高さから辺りを見渡す。いい眺め。辺りはネギやジャガイモの葉で満たされた畑が多い。


 眼下では、


「アド!」


 愛想を振りまくアドは結構人気者。アドのお陰で、僕には何人もの友達が出来た。


 そうしてアドと僕は思い思いに公園で遊び、公園の時計の長い針が半周する頃、満足したアドは僕の近くに来て止まる。


「帰る?」


「わん!」


 首輪に鎖を取りつけた僕は、先導するアドに鎖を引かれてお爺さんの家に帰る。

 途中であちこち道草するのはいつもの事だ。


「アド~。もう帰ろう? 早くしないと始まっちゃうよ」


 僕の言葉が解るのだろう。寄り道し過ぎて僕が焦り始めた頃、アドは真っ直ぐお爺さんの家へ。

 毎度毎度のことだけど、うんとハラハラさせられるよ。



「おう。帰ったか。ほんに毎回泥だらけだな」


「うん。アドがとんでもない道通るからね。僕疲れたよ」


「ははは。で、今日はどうする? 風呂は沸いておるぞ」


「入る」


 いつものように服を脱いで紙袋に入れる。お湯を掛けて軽く流し、お湯に浸かって温まる。

 お爺ちゃんに洗って貰ってお風呂から上がった。


 身体が火照って熱いから、お風呂から出てすぐお願いする。


「お爺ちゃん。首輪着けて」


 とおねだりする。


「ほんにしょうの無い奴だのう」


「だって。嘘んこだけど、僕はお爺ちゃんのわんちゃんだよ」


 首輪を着けて貰い、


「くぅ~ん」


 と啼いて四つ足のまま擦り寄ると、


「ハヤトは甘えん坊だな」


 お爺さんは優しげな眼を細めて、僕をいつものように抱っこした。


 お父さんもお母さんも、もうちっちゃい頃みたいに抱っこしてくれない。だけどここに来ればお爺さんが抱っこしてくれる。もちろん犬としてだけれど、もう大きいんだからとかお兄ちゃんだからとか言われない。

 今でも人犬を飼いたいお爺ちゃん。ごっこならわんちゃんするのも楽しいかなと思う僕。

 お爺ちゃんは、僕が犬の真似が上手くなるほど喜んでくれる。本当の孫みたいに可愛がってくれる。


 僕はお爺さんの膝に腹這いに抱かれ、背中をさすって貰っている。

 その格好で今日も、僕はカラーテレビを見せて貰った。



「坊主。日曜の事だがな。興味があるなら来ても良い。だがな人犬を飼うのは本当に危ない話だ。

 ここで見た事聞いた事を誰にも喋ってはいけないぞ。違えればお前が、怖い人達に攫われて遠い所へ売られてしまうぞ。

 そうしたら今みたいなごっこ遊びではない、本物の人犬にされてしまうだろう。

 怖いなら来るな。秘密が守れないなら来てはならん。いいな」


 お爺さんは改めて、来るか来ないか良く考えろと僕に言った。

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