第19話 明日の相談

 暴行女を隣に、険悪な雰囲気の中授業は進む。

 なぜ今日初めて会ったばかりの僕を敵視するんだろう?

 いや。暴力こそ振るわないけれど、休み時間他の子が話しかけても睨み付ける。

 男の子だけじゃない女の子が話しかけてもだ。


 兎に角愛想のない奴だ。

 休み時間代わる代わるテレビの話題を振ってみたら、ドリフもピンキーもハッチも全部、


「はぁ~。皆お子様ね~」


 大人びた溜息を吐いてそっぽを向く。


 給食の時だってそう。みんなが大好きなプリンを食べて居るのに、まるで無理矢理ピーマンを食べさせられているかのようなしかめっ面。

 それでいて、早く遊びに行きたい男の子みたいに、掻き込むように早く食べておかずのお代わりをする。


 愛想と言えば、


「富樫さん。私グラマー過ぎるからね。良かったら食べてくれない?」


 自分の分のプリンを持って来てくれた安倍さんにだけ、小さい声で


「ありがとう」


 むすっとした顔でお礼を言うくらい。



「ねぇ富樫さん。今日うちに遊びに来ない?」


 長いお休みで殆ど転校生状態の暴行女の為に、女の子達が誘うけど、


「ごめん。早く帰らなきゃいけないんだ」


「寄り道じゃなくて、一度おうちに帰ってからよ」


 と誘うけれど。


「……」


「明日は?」「明後日は?」


 いくら聞いても黙って首を横に振るばかり。


 全部こんな感じなので、帰りの会の始まる頃には、


「随分厳しいおうちなのね」


 と、話しかけるのを諦めてしまった。



 放課後。

 野球・魚釣り・ドッジボール。仲の良い男同士女同士で何をするか話す中。


「柿崎。今日どうする?」


 天然パーマの石川君が僕を誘う。


「んー。今日は犬のお散歩があるからね」


「そっかー。柿崎それでお駄賃貰ってんだよな」


「うん。貰ってる以上、ちゃんとやらなきゃ怒られるし。それに、今日は僕が遣らなきゃアドはお散歩出来ないからね」


 遣ればおやつもあるし、カラーテレビだって見れるんだ。

 だってうちのテレビは白黒の真空管だもん。去年コンバーターを付けてUチャンネルを見れるようになったけど。やっぱりカラーの方がいい。だから土曜日とか旗日の前の夜は、最初からお泊りしてテレビを見たりする。


「そっかぁ~。明日は?」


「うん。明日ならいいよ。明日ならお散歩行くまで時間あるし」


「日曜は?」


「ひょっとしたら、用事入るかも知れない」


「じゃあ、明日な」


 約束して石川君と別れた。



 友達付き合いもあるから、毎日する必要は無いとお爺さんは言ってくれている。その分今日のお散歩は念入りにして遣らなくっちゃ。そして三時までに戻って来てテレビを見るんだ。

 特に今日は、珍しくお母さんが居る日だし。僕の大好きな「おはなしこんにちわ」の日だからね。


 こうしていつも通り、一度家に帰ってランドセルを仕舞う。


「お母さん。今日はお爺ちゃんでお風呂入って来るから。着替えとお風呂道具頂戴」


 アドのお散歩をすると、いつも泥だらけ草だらけに為っちゃうんだ。だから、今では着替え持参で行く。

 お風呂に入って、全部着替えてから帰るんだ。


「お手伝いもいいけれど、宿題は?」


「ない!」


「テレビ見て来るの?」


「うん。だから歯ブラシも要るよ」


 そんな毎日だからお母さんは言う。


「まるでホントのお祖父ちゃんみたいね」


 って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る