2章 人犬のチコちゃん
第17話 お隣さん
僕の学校は毎日国語と算数がある。
特に国語は週九時間もあって、土曜以外二時間もある。先生の話だと小学校で二年生が一番国語をお勉強するのだそうだ。
二年生の初めの日。高尾先生は最初の授業でこう言ったのを覚えている。
「今年から、今まで三年生で習って居た漢字が七十文字も二年生に降りて来ました。算数も今年から九九を二年生で九の段まで全部習います」
一つ上の子達までは、九九は二年生と三年生で覚えることに成っていた。これだけ増えるんだもん。毎日国語と算数があるのも判るよ。
国語の時間なのに、先生は黒板に算数の問題を書いて行く。
――――
けいさん1
けれども、3まい たりないそうです。
1 30まい 2 25まい 3 22まい 4 28まい
けいさん2
55
あと、3
1 52
――――
こう黒板に書いた先生は、
「全員起立! ノートに問題を書きなさい。終わったら式を書いて計算しなさい。答えが出たら答えと同じ番号に丸を付けなさい。終わったら着席」
と指示を出した。
全員が着席するのを見て、
「答え合わせをします。計算1。1番の人……。2番の人……。3番の人……。4番の人……」
先生が手を挙げさせて確認すると、1番と2番の人は居なくて見事に3番と4番に分れた。4番が多く3番の倍くらいいる。
「正解は4番。
3が正しいと思った人。『足りない』と言う言葉が使われていたので引き算してませんか?
『足りない』『残り』『違い』と言う言葉が使われていても、足し算をしなければいけない時があります」
指摘されて、ざわざわとなる僕らの教室。
「計算2。1番の人……。2番の人……」
また先生が手を挙げさせて確認する。
今度は1番と4番に分れた。
「正解は1番。
4になってしまった人は、『あと、3人』と言う言葉から早合点して足し算をしてしまったようですね。
『合わせて』『増える』『多い』などの言葉が使われていても、引き算をしなければならない場合があります。良く注意しましょう」
先生は右から左に視線を動かし、ぐるりと僕達を見た。
この先生怖いかも。
そう思ったのは多分僕だけじゃないと思う。
一年生の時は女の先生だったから、優しくて幼稚園の続きみたいな感じだったけれど。
怖そうな先生に当たって、改めて二年生になったんだと思ったよね。
「計算問題は出来るのに算数のお点が悪い人は、問題を正しく理解していないのです。
計算は合っているのに悔しいですね。
一年生の算数は、計算が出来ればお点が取れました。でも二年生より上のお兄さんお姉さんの算数は、国語のお勉強も出来ないと駄目なのです。問題にも習った漢字が出て来ます。読めないと解けませんよ」
そうなのかとあの日、僕もクラスの皆も頷いていた。
そうそう。高尾先生は良く、隣の子と答え合わせをさせるんだ。
僕のクラスも他と同様四十人学級で、男の子と女の子が同数居る。男の子と女の子の机をくっ付けてお勉強しているから、本来ならば僕の隣には女の子が居る筈だ。
でも、その子は病気のせいでずっとお休み。だから僕だけ高尾先生がノートを見に来る。
怖い先生だけど、間違いにそっと薄く赤鉛筆で教えてくれるのは有難い。お陰で少しだけお勉強が楽しくなった。
そんないつもの教室に変化が現れたのは、今朝だった。
いつも遅刻ギリギリの僕としては快挙なんだけれど、一番に教室にやって来た僕。
誰が来るかなと廊下の方を見ていると、ガラガラと乱暴に開いた戸を潜って、見ず知らずの髪の短いズボンを穿いた女の子が入って来た。そして僕の隣に座ったんだ。
「君誰?」
僕が問い掛けた瞬間。
「ぎゃあ!」
太股に鋭い痛みを僕は感じた。
見ると尖った鉛筆の先が、僕の膝に突き刺さっていた。
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