第16話 行こうかな?止めようかな?
お爺さんの家から帰ってから、ずーっと僕は考えていた。
僕は通いでわんちゃんをしている。だから自分のお
毎日学校へ通えても、家ではずっと犬になるのはどう言う感じなんだろうって。
交通事故でお父さんが死んで、しかも加害者で沢山のお金を支払わなくなっちゃったお
僕と違って、無理矢理犬をさせられている子。
家でお洋服は着て居るの? それともずっと裸なの?
お
ちゃんとご飯は食べさせて貰えているの?
それでも。お姉さんの方はまだ、学校があるから犬じゃない時間もある。
だけど妹の方は学校に上がる前。幼稚園は僕の友達も行ってない子が沢山居るから、行かせて貰って居るとは限らない。すると多分、一年生になるまではずーっと犬でもおかしくない。
お爺さんから聞いた話で、想像が広がって行く。
「
お母さんが教えてくれるけれど。
「いい。今日は見たくない」
そう言うとお母さんが慌てて僕のおでこに手を当てて、
「お熱は無いみたいね」
ほっとしたように言う。
「……疲れた」
「そう。お布団布いてあげるから、今日は早めに寝ましょうね」
いつもより一時間も早い七時に僕は布団に入った。
わんちゃんの真似ならいいけど。ずーっとわんちゃんは嫌だなぁ。
あれは遊びだから楽しいんだ。ずっと裸だと春でも体が冷えて来るし、手を使っちゃいけないのはとっても不便。
ふと思った。飼い主さんのお布団に入れて貰っても、犬のまんまだから首輪だけのすっぽんぽん。それってどんなのだろうか?
売られた子の気持ちが知りたくて、その子が多分そうであるように、僕は布団の中でパジャマの下を脱いでみた。
僕は寝相が悪いから、眠ったままで暴れてズボンが脱げる事がある。バジャマのゴム次第では、ズボンが脱げる時一緒にパンツまで脱げちゃったりすることもある。だから。朝起きてお母さんが布団を剥がしに来る時に、下がすっぽんぽんでも怪しまれる事は無い。
布団の中とは言え、下を裸にするとスースーする。上は? いいや脱いじゃえ。
こうして僕は布団の中で裸んぼになった。
裸んぼって気持ちいい。だって何も締め付ける物がない。
裸んぼって気持ちいい。だってお布団の肌触りが良い。
裸んぼって気持ちいい。だってなんだかぞくぞくする。
首に首輪は無いけれど、布団の中で丸まってみる。
お爺さんの所で、さんざん裸で犬になっているのに。その時は感じなかったドキドキ感といけない思い。
自分で自分を抱き締めて、お尻を顔を脇腹を撫でてみる。
いつものお爺さん、お母さん。一年生の時の先生や今の先生。
クラスの子。ちょっと可愛い伊藤さんや、うんとおデブだけど優しい阿部さん。
色んな顔を思い浮かべて悪くないやと僕は思った。
時には喧嘩もする木村。意地悪そうな顔も実は悪くない。あいつ意外と学校のウサギっとか大好きだからね。お腹を優しく撫でたり背中をポンポン叩いたり。犬の僕をいじめたりはしない。
でも……。
痛い痛い。撫でる力が強すぎる。
僕は揉みくちゃにされていた。
ああ。判っていたよ。こいつがこう言う奴だって。
可愛がるあまり手加減が出来ないんだ。
って。なんで痛いの?
慌てて逃げ出そうとしたけれど、なぜか立てない。仕方なしに四つん這いのまま逃げ出そうとした。
だけど。くいっと首が締まって
げほっ、げほっ。僕はむせた。
「木村あんた何やってるの!」
学校のウサギの時のように、叱りつけ弾き飛ばした安倍さん。体重が倍以上違うから、普通の子はひとたまりもない。
「ハヤトちゃん。怖かったでしょう」
伊藤さんが僕を抱き締める。
えっえっ?
あり得ない展開に僕は、これが夢だと感ずいた。すると辺りは暗くなって、身体が全然動かない。
金縛り? 聞えてくる声はロバくんだ。お母さんが僕を起こす為に、いつもの子供ショーを点けている。
炊きたてのご飯と豆腐のお汁。そして甘い卵焼きの匂いが鼻に入って来る。
でも相変らず身体は動かない。そんな状態がしばらく続いて。漸くはっと目が覚めた。
布団を跳ね上げると。さっと冷たい朝の空気。そのままお茶の間に歩いて行くと、
「博也! なんて格好しているの」
そうだ。裸で寝たんだったっけ。
「もう二年生なんだからしっかりしなさい」
口うるさいお母さん。でも今朝に限っては口答えするのも恥ずかしい。
慌ててパンツとシャツを身に付け、枕元の服を着た。
売られた子供が来るのは日曜だ。行くか行かないかはそれまでに決めればいいんだよね。
子供ショーを見ながらテレビの時計を見ていると、そろそろ家を出る時間になった。
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