第14話 売られた子供
「なにやら言いたそうだな。許す。今休んでおる間、人間の言葉を話しても良い」
許可が出たので僕は聞いた。
「あがのうって何?」
「言葉が難しくて判らんのか」
「うん」
「それはな。買い取ると言う事だ。わしの子供の頃は、人が売り買いされていたのだな」
「売り買い……」
「明治の御代には子供を桶に入れて、天秤棒に担いで売り歩いたと言う話もあるぞ。
嘘じゃない。ちゃんと夏目漱石と言う小説家がそう書いておる」
「うーん」
「
当今様って言うのは判らないけど、そんなことより衝撃の言葉が飛び出した。
「えー! 学校で子供を売ったの?」
「はっはっは。現代っ子のお前は、物心付いて
昔は凶作とか不景気で
そこまで行かずとも、東京オリンピックの翌年辺りまではな。欠食児童と言って碌にご飯を食べられない子供がおったのだぞ」
「僕が生まれた後でそれ?」
「ああ。『弁当の無い子供達』と銘打って、テレビのニュース映画で流れておった」
ちょっと信じられない話だ。
「子供は皆、学校へ行けば給食が食べれる。そんな時代は随分と新しいものなのだぞ。
給食自体は戦前からあったが、それは都会の極一部。全国的に広まったのは戦後の事で、しかも最初は腹の膨れぬ脱脂粉乳だけだ。確かに滋養のある物だが、ビンの牛乳に慣れたお前には臭くてとても口に出来んだろう」
僕がキョトンとしていると。
「想像したくば。お前が冷えたサンマの皮と骨・ピーマンやニンジンの皮・血生臭い豚の肝。そんな物を口に含んでる所を思い浮かべればよい。それが古くて変な臭いの染み付い脱脂粉乳だ」
「うわぁ~」
思わず乾いた声が出ちゃう。
「それでも確かに滋養はあった。飲めば背が伸びるし、病気に罹り難くなる。罹っても軽く済む。だから当時の子供は鼻を抓んで流し込んだのだ。薬と思ってな」
犬の降参をしている僕のお腹を撫でるお爺ちゃんの手。
「今は良い時代だ。子供が売られる事も滅多にない」
「お爺ちゃん……」
「まぁ身も蓋も無い話だが。人犬を飼うのが道楽な、わしのような者には世知辛い時代になった。とも言えるがのう」
「お爺ちゃん……色々台無しだよ」
「はっはっは。最初は軍犬どころか肉と毛皮にされた初代のハヤトの苦い思いから、よもや人間ならば殺されまいと手を染めた人犬の飼育だったのだが。何時の頃からか人犬を飼うのが面白くなって仕舞ったのだ。
今でも昔の伝手から、たまに『新しい仔』を飼わんか? と話も来るが。相場は跳ね上がっておっての。昔みたいに気軽に購うことなど出来んのだ」
「昔は安かったの? 女の子だけ?」
「やはりお前も男だな。女の子が売り買いされたと聞いて詳しく知りたくなったか? 興味があるなら聞かせて遣ろう」
そう言ってお爺ちゃんは、昔の話をしてくれた。
「小学校に設けられた相談所で、対象に為ったのは、下は十二、三から上は十八くらいまでの女の子だ。
数えだから今で言えば五、六年生から中学卒業間もないくらいの年頃だ。
当時は
わしは伝手を使って、色街に売られる筈の娘を
なんか、凄い事を聞いた。
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