第59話 正義の味方

 帰り道。二人と手をつないで、ミツキはご満悦。

「あ。まゆまゆ」

「人のセリフを取らないでよぉ」

 公園のほうからやってきたメグミとカナエは、かばんを持っている。勉強帰りらしい。

 マユとサヤカが、勉強について一緒に話し始めた。

 手が離される。

「あたし、お先にしつれいします」

 かたい表情で頭を下げ、おさげをゆらすミツキ。そそくさとその場をあとにする。


 寒さのため、公園にはカップルの姿すら少ない。

 タイルでできた道を歩く少女が、泣き声を聞いた。早歩きで近付く。

「どうしたの?」

 返事がない。ベンチに座る泣き声のぬしは、小学6年生のミツキより年下の子供。

「迷子? どこから来たの?」

 となりに座っても顔を上げず、話ができない。

『気を紛らわせるべきです。使用を推奨します』

 機械的に変換されたような声がひびいた。左を見てうなずくミツキ。人差し指に、輪になった宝石が指輪のようにはまっている。


 立ち上がる少女。

「一緒に。メソン!」

 ミツキが左手を突き出すと、緑色の宝石がひとりでに外れた。まるいケースが現れ、中央におさまる。グリーンの輝きが満ちた。

『ゼノカラット』

「ゼノカラット!」

 りりしいポーズでケースをかざし、メソンと同時にミツキが叫んだ。

 鳴りひびく、弦楽器中心の音楽。

 光に包まれる少女。

 はずむような音とともに、服が変化していく。赤色でまとまり、白い部分も多い。ひらひらとしたかわいらしい服装になった。

 スカートの長さはひざ上。腰に現れた移動ポケットへ、飾りとして宝石がおさまった。

 輪の髪飾りがつく。髪は後ろでひとつに束ねつつ、耳の近くがたれている。

 あちこちにある青緑のラインを確認するようなしぐさとともに、変身が完了した。

「ラディラブ・ジェム!」


「消えたと思ったら、出てきた」

 子供が当然の反応をする。変身は一瞬。しかも念動で隠されている。力のない者にも見えるように調整しないと、普通は認識できない。

「正義の味方なんだよ」

 ジェムが得意げに笑った。

 いつのまにか泣き止んでいた子供が、いろいろと質問する。かがやく目に映る少女。力を使うことなく、時間が過ぎていく。

「あ。ママ!」

 母親の姿を見つけて、子供が駆け寄った。

「よかった。カズミが迷惑をかけてない?」

「だいじょうぶです!」

「ありがとう」

 ジェムの格好について、質問はなかった。親子がなかよく歩いていった。

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