第58話 たまには気分転換

 部屋に入るマユは、おおげさに身体を震わせている。

 すぐに、電気ストーブの電源が入れられた。即効性のある暖房で一息ついた少女。思い出したように、荷物を机に置く。

 悩みながら服が選ばれているとき、桃色の宝石はベッドの上で黙っていた。

 制服の上着が飛んできて、シューにかかる。


「おじゃまします」

「こんにちは!」

 サヤカとミツキがやってきた。茶色の多い部屋が、はなやかになる。

 電気こたつに入る前に、上着をぬぐ二人。落ち着いた色と鮮やかな色。ベッドの上へ置いて、そこにシューはいなかった。マユの頭についている。

『ついていけない授業は、なかった気がしたけど?』

 サヤカの頭で、ギアが1回光った。

「勉強好きだよね。シューは」

 三角の頂点を描いて座る三人のうち、一番背の低い少女がごそごそする。教科書を取り出した。

 そして、勉強会が始まる。


「んー」

 疲れた様子のマユが、大きく伸びをした。夕方はまだまだ先。

『水分補給が必要だよ』

「そう。息抜きも」

「さんせい!」

 熱を失っていく暖房器具。上着を羽織った三人が、台所で水を飲んだ。

 サヤカの提案で、ショッピングセンターへと向かうことにした少女たち。とくに買い物の必要はない。


 建物の中は、暖房により暖かい。

 冷やすために温度が低めにもかかわらず、食品売り場はごった返している。うって変わって、上の階に人はすくない。

 少女たちの足が止まった。前に白いケースを買った店は、眺めるだけ。

 ミツキが説明されて、なぜかりりしい構えをとった。

 うしろ髪を引かれるような思いは隠れていない。三人が文房具店に向かう。

「おーい!」

 最初に気づいたミツキが、遠くから声をかける。反応がない。ゲームコーナーでおもちゃの銃を持つ男は、集中している様子。

 シューティングゲームをするリョウ。画面の中で爆発らしき演出がおきて、ようやく会話に応じた。

 前よりもすこし上達していると自慢することなく、メガネの位置を直す。

「なんだ? 念動で場所を特定できんのか?」

「偶然だよ」

「そう。ただの息抜き」

「リョウくんは、変身しないの?」

「しねぇよ。ほどほどにしとけ」

 黒ずくめの男が、きょろきょろしながら去っていった。

 かわいらしい装飾を指差す三人。撮った写真をシールにできる、女子に人気の機械。宝石がきれいに映るよう調整して、笑顔が写された。

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