第57話 何気ない日常

 朝日にらされる教室。

 ふたりの少女が話している。となりの席にいながらほとんど関わらなかったときのことを話題わだいにして、笑い合った。

 窓際まどぎわの席につくサヤカ。光を背負ってゆれる長い髪。

 ぼんやりとながめていたマユが、髪の手入れについて話題を振る。

 サヤカのとなりで動かされる、椅子いすすわる少女は、ふわりとした雰囲気ふんいき

 かたから大きくはみ出さない髪を見ながら、サヤカが答える。

血行けっこうがいいと、髪も元気になるみたい」

「なるほどね。栄養えいようが、なんだっけ?」

細胞さいぼう酸素さんそで動くけど、運ぶための血液けつえきは髪の毛にないからね』

 マユの頭からの声で、会話が止まる。桃色ももいろ宝石ほうせきの話を分かりやすく伝えるサヤカによって、しぶい顔がほがらかに変わった。

「何? 恋の話だったりして」

「まずは挨拶あいさつでしょ。めぐめぐ」

 ふたりの友人がやってきて、会話に加わる。

 あいさつのあとで赤血球せっけっきゅうの話をされ、メグミは不満ふまんそうな顔のまま笑った。にやにやするカナエが、運動の大切さをく。

苦手にがてでもやるのはエライ。っていうか、あれからレンマとは、どう?」

 じょじょに紺色こんいろが増えてさわがしくなっていくなか、雑談ざつだんする四人。


 体育館で、さむそうな生徒たちが順番じゅんばんを待っていた。

 ひたすら同じ動きをする少年も、身体からだげて手をゆかにのばす少女も、みんな体操服姿。

 体力測定たいりょくそくていがおこなわれている。マユのとなりのクラスと合同で、いつもの体育とはちがう。

 少年がひときわ高くんだ。

「おおー」

「すごーい」

 先生が私語しごを注意する。人一倍大きな声を出したコウスケが、はっきりとあやまった。女子たちから、ごめんなさいの合唱がっしょうが起こる。

 レンマがもうわけなさそうな顔をして、小さく首を動かす。

 視線しせんに気づき、マユを見る少年。やわらかな顔で手を振り返し、次の場所へ歩く。すれ違うサヤカから小声で何かを言われ、言葉を返していた。

 念動ねんどうは使われていない。レンマの足に力が入った。

 そつなくこなすマユ。

 得意とくいでも、練習れんしゅうしないと上手くならない。それを、シューは説明しない。努力どりょくを知っているから。だまって見守っていた。

 サヤカは、前よりもすこし運動できるようになっていた。

 やらなければ変わらない。いちいち説教せっきょうする気のないギアは、光らない。

 悲しげな顔の生徒が見当たらないため、先生が安堵あんどいろをにじませる。


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