第十二節 ミツキと友達! 大切なジェム

第56話 いつもの朝

 住宅街。まだ外は薄暗い。

 肌を刺すような寒さのなか、白い息をはいて歩く人の姿がある。

 その様子を知りえない、とある家の中。掛け布団をしっかりとかぶる少女は、ボブカットを乱していた。規則正しい呼吸をしている。

 時間が進んで、目覚まし時計が鳴らない。

『マユ。マユ』

 遠くから呼ぶような声。かわいらしい。たとえ夢で返事をしても、相手には伝わらない。

『朝だよ』

「もうちょっとだけ。……じゃない! シュー、ありがとう」

 飛び起きたマユが電気ストーブをつけた。着替え始める。

 パジャマの上着が飛んできて、ベッドの上の宝石にかぶさった。


 母親と食事をするマユは、紺色の制服姿。

「何か、いいことあった?」

「うーん。友達が増えた、かな?」

『微妙な言い回しだね。でも、間違ってないよ』

 頭についている、桃色の宝石がしゃべった。

「いつでも来てもらってね」

「うん」

 シューの声は、普通の人には聞こえない。力が強くないと、髪飾りとして認識することすらできない。

 食べ終わったマユが、出かけるための準備をする。

 歯磨きのため鏡の前へ。目的ではないものを見つめて、注意された。少女はおとなしく従う。

 くるりと回って、支度がすんだ。

「いってきまーす」

「いってらっしゃい」


 学校へ向かうマユ。日の差すほうへと歩く。

「おはよう!」

 元気のいい小学生から声をかけられ、マユがあいさつを返す。家が近いミツキとは、たいてい一緒に登校している。

 おさげの少女の指で光が反射されて、シューは何も言わなかった。

「おはよう」

 後ろからやってきたサヤカが合流した。三人であいさつをする。

 雑談に加わる宝石の声に、周りの生徒たちは反応しない。サヤカの頭で、水色の宝石が1回光った。

「またね」

 ミツキが小学校に向かった。同じクラスの友達と話しながら。

 二人は中学校へ向かう。教室に友人が来るのは後だと予想して、シューとギアが同意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る