第54話 暗黒で輝く光

 ちからをぶつけても、幻の世界ができない。メソンはすずしい顔。

「ノーシスは必要ありません。すべてを破壊はかいするからです」

 寒々さむざむとした公園はおろか、町もろとも消し去る力がある。それを知るレンマの顔には、あせ。あわてて説明せつめいする。

宝石ほうせきちからをぶつけて発生させていたんだ」

「メソンがすべて持ってるから」

「ノーシスが作れないの?」

 二人は何度も見てきた。ノーシスでこわれた物が、現実げんじつではこわれていない様子を。それが、いまはない。

 せっかくラディラブに変身へんしんしたのに、このままたたかえばまち破壊はかいしてしまう。

「リョウ。どうすればいい?」

「って言われてもな。念動ねんどうはよく知らねぇぞ」

「さっき自信満々じしんまんまんに言ったのはなんだったの。リョウくん」

 ミツキがほおをふくらませた。


 予備動作よびどうさもなく、メソンからやみが広がる。

 とっさにふせぐレンマ。だが、押されていく。五人を同時にまもるには、ちからが足りない。少年がひざをつく。

「ごめん。せめて、これを!」

 白い光がふたつに分かれて、あたりはくろりつぶされていく。レンマの残りのちからが、ピュアとアレンジにたくされた。

「おい! 頼んだぞ」

「ラディラブ! けないで」

 何かを言いかけたリョウとミツキ。見えなくなる前に、レンマにつづいて芝生しばふで横たわった。

 セーマに近づいたときと同じく、くろきりにふれた人たちがたおれている。

 公園の外にも、道路をまたいでうねるやみ。巨大な手で包み込むように。自動車じどうしゃは動きを止めていた。異変いへんの中心で、メソンはむらさきひかりはなっている。

「みっつは元々同じ。人の心を解析かいせきし、判定はんていするための宝石ほうせき

 ピュアもアレンジも、ちからふせぐので精一杯せいいっぱい。なかなか近寄ちかよれず、思わず声を上げる。そのさけびを聞く者は、誰もいない。

 歩道で、中年ちゅうねんの男が大の字になる。どんどんやみが広がり、マユの家で母親がたおれる。

 サヤカの家で父親がたおれた。

 遠く。山のふもとにたおれているガイロンの構成員こうせいいんたちも、やみに飲まれていく。

 どれだけの範囲はんい異変いへんが起こっているのか、真っ暗ななかで知ることはできない。二人は、メソンのそばまで近づいた。

結果けっかは、たましい排除はいじょです」


 ゆらぐ光。ピュアとアレンジもやみおおわれた。

 手をのばしても、おたがいにとどかない。

 夜空から星をなくしたような、完全かんぜん暗黒あんこく支配しはいする。

『マユ。マユ』

 遠くからぶような声。少女には聞き覚えがある。

 やわらかな光であふれる場所。白に近い桃色。そこにピュアはいなかった。おかっぱよりもすこし長い髪をゆらして、マユが立ち上がる。

 少女の前に立つのは少年。同じくらいの背。知らない顔なのに、どこかなつかしい。髪は内向きのマッシュショート。


 別の場所。ふしぎとやさしさを感じる光に満ちた、白に近い水色の空間。やはり、そこにアレンジはいない。

 態勢たいせいを変えたことで、つややかな髪がなびく。サヤカの前にも少年がいた。少女には及ばないものの、うしろ髪だけが長い。


 見える唯一ゆいいつ他者たしゃに、マユが聞く。

「えーっと、ここは?」

『あえて言うけど、第一声としては適切てきせつじゃないよね』

「シュー? そんな姿すがただったんだ」

『プシュケーだよ』

 おどろきとうれしさが入り混じったような顔の少女と違って、少年は落ち着いている。姿はまぼろしのようなもので、心のうつかがみだと語った。

『これ以上、抵抗ていこうしないほうがいい』

「なに言ってるの。力を貸してよ」

 あたたかい色をまとう少年が、すこしだけけわしい顔になる。

『ガイロンなんか目じゃない。世界のすべてを破壊はかいするっていう、てきだよ?』

「シューは、シューでしょ。それにしても、記憶が戻ってよかった」

 心底しんそこうれしそうなマユにつられて、少年が笑う。

『これは精神攻撃せいしんこうげきだよ』

「分かりやすく言ってよ」

『ボクたちは、マユたちに長いあいだ接触せっしょくしすぎた。その影響えいきょうがメソンにも出てるんだよ』

「いいこと?」

『どうかな。いま、メソンは色々な人たちと深くせっして解析かいせきしてるから、すきがあるね』

 どうやって脱出だっしゅつすればいいのか、少女は分からない。微笑ほほえむ少年は、伝えるべきことを伝える。

『前向きな気持ちさえあれば、マユは何度でもたたかえるよ』


 永遠えいえんの広がりがあるかのような空間で、サヤカが言う。

「ギア? でしょ?」

『なんでオレがわかるんだ。いや、愚問ぐもんだな』

 少年の態度たいどに、すこしのあいだ少女が固まった。吹き出したあとで、声を上げて笑う。

「思ってたのと、ちょっと違った」

『だろ? 沈黙ちんもく美徳びとくだ。オレみたいにひねくれたやつには、な』

「でも、きらいじゃないから」

 悠長ゆうちょうに話すサヤカに、冷たい色をまとう少年が説明する。望んでいることを言わずに、ただ、事実じじつだけを。

『メソンの術中じゅっちゅうにはまって、ここで話すのも悪くない、なんて言わないだろうな?』

 幻をやぶるには、念動ねんどうを高めること。サヤカが理解りかいした。切なそうな顔で、最後さいご質問しつもんをする。

「ロギアって呼んだほうがいい?」

『名前なんて無価値むかちだ。サヤカの好きに呼べばいいだろ』

「じゃあね。ギア」


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