第53話 心の宝石

「さっさと変身へんしんしろ!」

 リョウがさけんだ。

「そう言われても」

「ないから。宝石ほうせきが」

 マユもサヤカも、うなだれていた。病弱びょうじゃくなはずの男が、五人の中で一番元気いちばんげんきがあるように見える。メガネのおくひとみが、脅威対象きょういたいしょうをとらえた。

「あんなもん、ただのかざりだ。今まで何をやってきたのか思いだせ!」

 二人の体験たいけんがよみがえる。

 宝石ほうせきに教えられて、ラディラブに変身へんしんしたこと。幻の世界を見たこと。大きな怪物かいぶつたたかったこと。

 ノーシスという名前と、セーマという呼びかた。てきとして出会った黒い男。

 はじめは対立たいりつしていたのに、協力きょうりょくしてたたかうようになったこと。

 てき幹部かんぶだった白い少年。生み出されたゲーセーマは、これまでより大きな怪物かいぶつ

 そして、ラディラブのあたらしい姿すがた

 そばにはいつも、シューがいた。

 肯定こうてい否定ひていかを光って伝える、ギアがいた。

 メソンとともにある宝石ほうせきは、一所ひとところにとどまっている。のんびりと話を聞いていた。

「リョウの言うとおりだ。ぼくは普段ふだん、かけらを持ってなかった。あれはきっかけ」

「レンマくん。あたしも変身へんしんできる?」

 目をかがやかせたミツキが聞いた。ばつがわるそうに、少年が口を開く。

触媒しょくばい覚醒かくせいしておかないと、危険きけんだと思う」

「そんなぁ」

 少女がうなだれた。赤い服が、心なしかくすんで見える。むりやり変身へんしんさせられたのは数に入らないらしい。

「でも、たたかえないよ」

きずつけることになる」

 ためらう理由は、シューとギア。そしてメソン。相手に伝わっているかは関係ない。マユとサヤカが、むらさき宿やどしたみどり念導師ねんどうしを見つめる。

「最初っかられてただろ。お前らの相棒あいぼうは、そんなにヤワなのか?」

 リョウの言葉で、二人の気持ちは決まった。


 マユとサヤカがおたがいを見た。小さくうなずく。

 メソンに向く、真剣しんけん眼差まなざし。

「いいよね。シュー」

「見てて。ギア」

 まるいケースも、宝石ほうせきもない。それでも、いつもと同じように二人がかまえる。

「エックスカラット!」

 ことなる声の合唱がっしょう。ゆっくり感じられる時間が、ちから解放かいほう物語ものがたる。ピアノ中心の音楽とかさなって、打楽器中心だがっきちゅうしんの音楽も鳴った。

 光に包まれる二人の少女。表情は明るい。

 はずむような高い音とともに、服が変化していく。

 マユは桃色ももいろ基調きちょうとし、白い部分が多い服装に。いつもどおり半袖はんそで肩口かたぐちがふくらむ。かさなるレースが、いたるところをいろどった。

 水色みずいろ基調きちょうとするのは、サヤカ。白くひらひらとした飾りが豊富ほうふで、かわいらしい。ふんわりとしたかたの先は長袖ながそで。カフスがめる。

 色を合わせてコーディネイトされる足元。短めのスカートがゆれた。

 マユの服には、ワンポイントで緑色が入っている。その頭に、けんのような形の髪飾りがつく。桃色。うしろ髪はそのままで、後頭部だけ小さくひとつに束ねられた。

 サヤカの服には、アクセントとして橙色だいだいいろがある。前髪の近くに、つばさのような形の髪飾りがついた。水色。長いうしろ髪はそのままで、左右がふたつ細めに束ねられる。

 北風をものともせず、いつもと変わらないポーズを取る二人。

「ラディラブ・ピュア!」

「ラディラブ・アレンジ」


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