第52話 メソンとの対話

「ネモトさん。シューはどうなったの?」

 泣きそうな顔のマユの問いに、いつもと変わらない声が返される。公園にいる人も、まちも、なんらおかしいところはない。四人の少年少女たちをのぞいて。

「先ほど話したとおりです。あと、その名前は適切てきせつではないので、メソンと呼んでください」

 プシューコロギアとひとつになったメソンを、まだだれも受け入れらない様子。

 困惑こんわくする面々めんめんを見て、女性がおだんごヘアをほどいた。ポニーテールにする。服を変え、緑のなかに黒とむらさきじらせた。

 豊満ほうまん胸元むなもとで目立つブローチ。石は、かがやきをはなたない。

「これで念導師ねんどうしに見えますか?」

「メソン。なんで、こんなことを?」

 声とともにロングヘアをふるわせるサヤカ。拍子抜ひょうしぬけするほど、あっさりと答えが返る。

「心を研究けんきゅうするために、ガイロンを利用しました」

「やっぱり、さっきのは。もう壊滅かいめつさせたのか」

 レンマにうなずき、メソンが肯定こうていする。

「ゲーセーマは、深層心理しんそうしんりを調べるために必要ひつようでした」

怪物かいぶつにするなんて、ひどいよ!」

 ミツキのおさげがゆれた。なついている少女の悲痛ひつうさけびを聞いても、メソンの表情は変わらない。おだやかなまま。

「ひどいのは、人間ではないですか? 結論けつろんとして、不要ふようです」

 マユたちが何かを言う前に、少年が一歩踏み出した。まよいは感じられない。

たしかに、ガイロンは変なやつばかりだ。でも、それ以外には、マユさんやサヤカさんのような人もいる」

 振り返らず、レンマが右手をる。少女たちを示した。

肉体にくたいというかせがある以上、たましいみがいても意味いみがありません。解放かいほうします」

「ちゃんと説明せつめいしてくれないと、分からないよ。とにかく、やめて!」

「ギア。答えて。ギア!」

 マユとサヤカの言葉に反応はんのうはない。言いたいことがまとまらない様子のミツキは、息をはき出すだけ。

 念動ねんどう収束しゅうそくする。風がけた。

 白くかがやくレンマのこぶしが、メソンのむねの前で止まっている。不意打ふいうちはふせがれた。

「マユさん、サヤカさん、ちからしてくれ!」

 石には届かない。手を開いてつかもうとした少年の前で、石にひかり宿やどる。きらめくむらさき。バリアのようなやみかみなりに、白い光がふれた。派手はでにはじかれる。

 あっというまにんでいく少年。水切みずきりの水面をねるいしのように。マユたちをえたものの、公園の外までは出なかった。

 白い服は健在けんざい。だが、土埃つちぼこりでよく見えない。少女たちの声がこだまする。

「レンマ!」

念導師ねんどうしとして覚醒かくせいしてるのに。まあ、信じてもらえなくて当然か」

 すこしさみしそうな顔で目じりを下げるレンマに、ミツキがる。

「だいじょうぶ?」

「ぼくの頭じゃ無理むりだ。あいつなら……」

 レンマは、ポケットから携帯電話けいたいでんわを取り出した。


 変身へんしんしようと、移動ポケットに手をのばす二人。

 そこに宝石ほうせきはない。

返事へんじをして! シュー!」

 メソンからも、そのむねに見える宝石ほうせきからも、よく知るあの声は返ってこない。

すべてをひとつにすれば、いくらでも話ができます」

「どうすればいい? ギア」

 やはり反応はんのうはない。プシューコロギアはにぶくかがやくのみ。Ψに似た形で。

 レンマとミツキが合流しても、打開策だかいさくはない。平穏へいおんで落ち着いた景色けしきと違って、めた緊張感きんちょうかんちていた。

「なんだよ。新しい仲間なかまか?」

 気の抜けた声とともに、黒い服の男が近づいてくる。メソンの次に背が高い。あくびする口元を手でかくして、厚着あつぎのリョウがやってきた。

ちがう。リョウなら打開策だかいさくを見いだせるはずだ」

「いや。だれだよ」

 姿すがたがよく見えなかったため、リョウはレンマの正体を知らない。念導師ねんどうし全力ぜんりょく認識にんしきできるのは、ちからつよものかぎられる。

「ん? 白い幹部かんぶか。マジかよ。はっきり見えるってことは、あいつ相当そうとうヤバイじゃねぇか」

 おどろいた表情のレンマが、口元をゆるめる。たのもしさのあらわれだとは、本人にしか分からない。

だれ?」

 ミツキが首をかしげる。少女は、リョウのことを知らなかった。


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