第49話 闇のラディラブ

 遠く。山のふもとで爆発が起こった。

「まさか」

 ガイロンのアジトがある方向だと知る少年以外には、状況が分からない。三人の少女には、ただ、宝石のかけらのイメージがいくつも感じられるだけ。

 衝撃波と共に震える空気を、レンマが念動で防いだ。そのあとで、爆音が公園に伝わる。

「メソンを出し抜くには今しかない。その力が、ここにある!」

 白いケースを開け、桃色と水色のかけらを両手でにぎる、白い服の少年。まるで野心をにじませない、暗くよどんだ表情で。

 永遠とすら思えるくらい、時の経つのが遅く感じられた。

 指のあいだからもれる、赤い光。

 レンマの手が離れた。赤いものが宙で静止する。

 大きさは、シューやギアより小さい。合わさったかけらが、星型でいびつな赤い宝石になっていた。

「ひどいことをしないで!」

 マユは、シューのために怒っていた。頭についている宝石は、反応しない。

「人の心に触れることで、かけらは力を増す。ソーマの完成だ」

「そんなことのために、人を傷つけて!」

 サヤカは、ゲーセーマにさせられた人を思っていた。ギアが何を考えているのかは、分からない。

「ソーマ! やるぞ」

 焦る二人と違って、ミツキは落ち着いていた。力の流れがはっきりと見えている。


「念動変身!」

 赤い宝石をつかもうとして、レンマの右手は触れられなかった。すかさずのばした左手も弾かれる。ソーマは鈍い色でたたずむのみ。

 一番年下の少女が、適切な状況説明をする。

「難しいんじゃないかなぁ。ソーマっていうの、ふくざつになってるよ」

「うまく組み合わせるのは、ぼくには無理か。知識を取り込めさえすれば」

 マユが静かにつぶやく。

「もう、やめて」

『別に、痛くないよ』

「力を求めて、どうするつもり?」

 さまざまな感情が入り乱れる。しかし、普通の人には宝石が認識できないため、騒ぎにならない。いつも通りの公園でしかない。

 レンマが、ためらうことなく念動を使う。ミツキを引き寄せた。

「わかってるだろ? この身体を捨ててでも、世界を変えるんだ」


 赤い星型の宝石にミツキを近づける、レンマ。

「二人分の念動なら!」

 赤い光に視界を奪われて、ミツキの意識が遠のいていく。

 そして、レンマの姿は変わらなかった。

 セーマが現れるときのように、やみが湧き出してきた。一歩下がっている少女たちと違って、少年の退避が間に合うはずもない。

「黒? って」

「ゲーセーマ?」

 マユとサヤカの言葉は、レンマに届いていた。薄れていく黒い霧の中で、ふらつく姿をさらす。

「違う。こいつは……ダークラディラブ」

 空中でじょじょにはっきりしていく、人の形。闇がミツキのもとへ集まる。隣で、レンマが倒れた。声をかける二人に返事はない。

 黒を基調としつつ、赤も混じった服装の少女が現れた。変身後の二人より厚着。

 ダークラディラブの胸元で赤く光るのは、ソーマ。いつものミツキとは表情が違う。ゆっくりと地に足をつけて、二人に敵意を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る