第48話 ウソはただひとつ

 日が高い。しかし、あまり日差ひざしは強くない。

 ふたたび公園にやってきた三人。食事を済ませて元気いっぱいのミツキとちがって、マユとサヤカは動きがおそい。私服で、運動にてきさない重ね着。

後輩こうはい訓練くんれん?」

 オレンジ色の服を目指して、少年が近づいてきた。フードつきの白い上着を羽織はおっている。否定ひていする少女に対し、苦笑にがわらいするような顔でレンマが切り出す。

「ちょっと、大事だいじな話があるんだ」

「え? レンマ。わたし?」

 顔を近づけられるマユ。勉強について聞かれると思ったのか、青い服のサヤカのほうをチラチラと見ていた。

「やっぱり、そういう関係かんけいなんですか?」

 運動どころではない様子で、興奮こうふんするミツキ。着ている服ほどではないものの、顔が赤い。少女に二人の意識いしきが向いた瞬間しゅんかん、レンマが動いた。マユを狙う。

 開かれるうすピンクの移動ポケット。四角いケースが少年の手におさまった。

「これで、ちゃんと聞いてくれるかな?」

「ひょっとして、大事だいじな話って――」

「好きな子にいたずらしちゃうっていう、あれだよ。あたし、知ってる!」

 サヤカの言葉がさえぎられた。目をすこし大きく開けた少女が、ほおめる。

 そのすきを見逃さない少年。あっというに、もうひとつのケースもうばった。

「なんで、わたしのも? 冗談じょうだんはやめて。レンマ」

 うすいブルーの移動ポケットが開けられている。友達思いの少女は、自分がされたことでおこってはいなかった。

 レンマはやわらかな表情。敵意てきいは感じられない。


 すわって話そうというレンマの提案ていあんを、二人が拒否きょひした。

 三人と一人が向かい合う。公園をつらぬくタイルの道をはさんで。

「長くなるかもしれないけど、仕方ない。いまなら秘密組織ひみつそしきガイロンを消せる」

すわって、ゆっくり、話しましょう!」

 すこし背の低い少女は、まだ興奮こうふんしていた。それをたしなめることもなく、マユとサヤカは顔を見合わせている。もう一度、少年のほうを向いた。

「ゲーは世界せかいって意味いみだけど、人の名前には大きすぎじゃないか?」

 言われて、二人の少女はようやく思いだした。校庭で、ゲーの姿がはっきり見えるようになったときのことを。

 念動ねんどうによってポケットから防風ゴーグルを取り出そうとしたレンマは、それをやめた。

「ウソでしょ?」

大事だいじな話って、何?」

「待っていたんだ。このときを」


 少年は、誠意せいいをもって説明しているように見える。

 ガイロンの念導師ねんどうしは、うしきの感情かんじょうでないとちからが使えないらしい。そこで、前向きの感情でちからを使うラディラブに、つよくなってもらう必要があった。

「すべては、秘密組織ひみつそしきガイロンを内部から破壊はかいするためだ」

『確かに、対抗たいこうするにはちからだとむずかしいね』

 マユの頭に髪飾りとしてついているシューが、レンマの話に矛盾むじゅんがないことを告げた。

 いまいち信じられない様子のマユ。心に引っかかっているものがある。

「悲しそうなのは、何かを抱えてるんでしょ?」

 質問しつもんに答えは返らない。すこしだけ目を細めたレンマが、口を開く。

「ロギアの被験者ひけんしゃだからな。まともじゃないかもしれない」

「ギア?」

 サヤカの頭で、水色みずいろ宝石ほうせきが1回光った。

「こんな風に、いつでもかけらをうばえたんだ。でも、しなかった。する必要がなかったんだ」

「ウソだよ」

 ミツキが断言だんげんした。急に大人びたような顔で、少女が少年をにらむ。

 念動ねんどうみだれから、うそか本当かを判断はんだんできる。博士はかせとの実験じっけんで知っているレンマが伝えるべきことは、決まっている。

かんがいい、と言いたいけど、念動ねんどうか」


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