第42話 進む計画

「歯と歯の間をみがくのが重要なんだって」

『受け売りだね』

 昼食のあと、家に戻ったマユが歯磨きをすませた。

 ほおをふくらませて鏡をにらみつけていた少女が、とつぜん振り返る。

 かけらのイメージを感じ取ったからだ。

「どうしよう。サヤカの家と、逆」

 迷いの色はすぐに消えた。頭でたたずむシューの言葉を待たずに、マユが家を出る。


『どうする?』

「うーん。待とうかな」

 勢いよく飛び出した少女は、現場近くで足踏みしていた。激しい靴音が近づいてくる。

「ごめん。遅れた」

「気にしないで。慎重にいこうよ」

 呼吸の荒いサヤカが立ち止まった。ロングヘアが乱れている。髪飾りのようについているギアは、静かなまま。

 ふたりの少女がゆっくり歩き出す。通いなれた道を。

 まだ、ゲーセーマは現れていない。


 生徒たちの姿がない学校。

 いるはずのない者を、ほとんどの人が認識できない。校舎にいる先生たちは、校庭を見ていない。

 すりガラス越しに見えるような姿で、白い服の少年が立っていた。

 マユとサヤカが、閉じられた門越しにゲーと対峙した。軽装ではなく、長袖の上着を羽織っていることが分かる。

 スポーツ用の防風ゴーグルをつけた少年が、口を開く。あまり加工されていない声。

「かけらと融合しないのか? プシュケー」

「シューの、本当の名前?」

 沈黙が返された。

 かわりに、ギアが1回光る。ふたりは、視界の端にうつった色の意味を考えていた。

「できるだろ? 博士なしでも」

『必要ないだけだ。ボクは、ここにいる』

 ゲーが両手を動かす。桃色と水色のかけらを取り出し、用務員の男性を宙に浮かせて引き寄せた。流れるような動きを、二人は止めることができない。

「心を見せろ、ゲーセーマ!」

 ふたつのかけらが飛んでいく。用務員の前で黒く染まって、一瞬の静寂せいじゃくが訪れた。

 はじける闇。男性を中心に、あたりを飲み込んでいく。

 ゲーセーマは、校舎に迫る高さ。いままでのものより大きい。そして、どこからも悲鳴は聞こえない。立ち向かえるのはラディラブだけ。

 木の枝にホース、さらにピッチングマシンが混在していながら、人の形に近い。それを、二人の少女は恐れない。

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