第37話 水辺の異形

 ときおり高い声がひびく、建物たてものの中。

 楽しそうな人たちとともに、水のはねる音がする。外のようなじりじりとする暑さは、ない。プールは天井てんじょうまもられている。

 メグミとカナエの横に、コウスケもならぶ。レンマの話を聞いていた。水に入っていない。

準備体操じゅんびたいそうしたし、泳ごうよ」

 サヤカの返事を待たず、マユがプールに向かう。合成樹脂ごうせいじゅしとはいえ、転ぶと危険きけん

「やったー」

 水着のスカートが派手はでに動く。ミツキがつづいた。

「体温が下がるから長時間はダメだし、水分補給すいぶんほきゅうもすること」

「うん。ありがとう」

「はい!」

 泳ぎ始める三人。つかのまのすずしさを満喫まんきつして、水からかたを出す。輪の流れにそって歩きだした。談笑だんしょうしている。

 一周した。同じ景色けしきになる。何の気なしに、マユがプールサイドを見た。

 泳いでいない人の中にいたのは、レンマ。身体からだれていない。短めで、右から左へ流れているような前髪も。

 遠くにいながら、悲しそうな表情だと分かる。マユが心配そうな顔になった。

「んー」

体調たいちょうわるいのかな?」

 気づいたサヤカが聞いても、答えが分かるはずはない。

 ミツキは、遊んでほしそうに二人を見ている。うしろから水をすくい上げた。しかし、うまく飛ばずに少しだけかかる。

「ごめんね。ぼーっとしてた」

「水には浮力があるけど抵抗ていこうつよいから、身体からだを動かすには力がいる」

 なめらかな右腕みぎうでの動きで、美しいしぶきがった。

「どうやったら、うまくできるの?」


 休憩きゅうけいのため、プールから出るマユたち。

「あまりつかれてないと思っても、休まないと」

しずんだら、シャレにならないからな」

身体からだと一緒に髪も乾かすべき。れたままだとダメージがあるから」

 サヤカの言葉で色めき立つ女子たち。れていないレンマが、飲み物を買いに行った。

 光。水色のイメージを感じ取る二人。

 とつぜん、プールの中で水柱が上がる。なんの仕掛しかけもない場所で。

 マユとサヤカが辺りを見渡す。大勢おおぜいの人たちのほとんどは、まるで気にしていない。若い集団の中で、まとまりの欠けた髪の女性がびっくりしただけ。

 ゲーセーマがあらわれた。

 水とかぎ、さらに果物と魚のひれが合わさった、異質いしつ巨体きょたい天井てんじょうにはわずかに届かない。


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