第35話 光と温度差

 東屋あずまや。柱だけで支えられた屋根の下に、ベンチがある。

 公園で一休みできる場所。

 どうにか太陽の光からのがれた二人。だらけている少女たちに、白い軽装の少年が近づく。

 三人より年下の少女が、それを遠くから見ていた。近づかず、木陰に隠れるミツキ。

 少年が話しかけた。

「こんにちは。確か、隣のクラスの」

 誰なのか覚えていない様子のマユに、サヤカが説明する。彼の名は江川えがわレンマ。

 あいさつをする、桃枝ももえだマユと藤志水とうしみずサヤカ。

「マユは運動できるから。あまり注目してなさそう」

「あ! 合同の体育で」

 活躍していたことではなく、悲しそうな表情を思い出した。マユが胸の奥にしまう。

「ただ丈夫なだけで。勉強もできるサヤカさんのほうがすごい。羨ましい」

 サヤカはあわてている。おおげさに手を振って、ロングヘアがさらさらとなびいた。

「すごくない。運動、苦手だから」

「すごいよね。えっへん」

 マユは、自分のことでもないのに得意気な顔になった。肩まで届かない髪が風に遊ばれて、眉の力が抜ける。

 顔を赤くするサヤカがマユをいじって、レンマが笑う。短めの髪は、あまり風の影響を受けない。

「なぜ、こんなに暑いのか」

「さあ」

「説はいろいろあるみたいだけど」

 途中で言葉を止めた少女のほうを向き、少年が目を細める。

「いいな。本当に」

「ん?」

「いや。それじゃ、また。無理せず冷房を使ったほうがいい」


 公園を出て、レンマが去っていった。

 同じく帰ろうとする二人の前に、おさげの少女が立ちはだかった。目を見開いたミツキがこぶしを握る。

「彼氏? 彼氏なの?」

 ぴょんぴょんと跳ねながら、肩でふたつの毛先をゆらすかわいらしい生き物。マユは首をかしげる。

「え? 彼氏なの?」

「違うでしょ。隣のクラスの人」

「あやしい」

 ミツキは、まだ疑っているような顔のまま。

「暑いよ。ミツキも、どこかで涼もう」

「たまには、うちに行こう」

「サヤカの家、初めて!」

 興味が別のところに移ったようで、ミツキがそわそわしている。三人はサヤカの家に向かった。

「父さんが面白くないことを言っても、無理に笑わなくていいから」

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