第32話 狙いと礼

「あ? 次はゲームかよ」

 もはや無表情むひょうじょうに近いリョウが、マユとサヤカについていく。おもに子供向けの、小さなゲームコーナーにやってきた。

「さわがしいから、いいんじゃないかなって」

「もうちょっと楽しそうにしないと、あやしまれるでしょ」

 苦笑にがわらいしたリョウが、二人の目的をさっしたらしい。ガンシューティングゲームを始める。

「ガイロンについて、だろ?」

 なんだかよく分からない機械きかいおそってきている画面を見つめるのは、一人だけ。

「そう! 教えてもらおうと思って」

「受け身じゃダメ。情報じょうほうが欲しい」

しただったからな、おれ。アジトがどこかも知らねぇぞ」

『アジト?』

 桃色と水色のかけらが飛び散る場面を思い出す、シュー。近くにいる女性の顔は、思い出せない。


幹部かんぶだろ。白いガキ」

 リョウによると、しろ幹部かんぶがかけらに念動ねんどうを込めていた。それを使ってセーマを生み出したらしい。

 あまり上手いプレイではなく、ゲームオーバーになった。


つかれたから休ませろ」

 リョウは顔色がよくない。突然とつぜんではなく、いつものこと。三人が、休憩きゅうけいスペースですわる。

休息きゅうそく

頭脳労働ずのうろうどうするには念動ねんどうが必要なんだと。身体からだよわいから、したは向いてねぇんだわ」

「なんだか、頭がいいように見えてきた」

「ほかのやつにそんなこと言ったら、おこられるぞ」

「飲み物って、どこで買える?」

 サヤカの提案ていあんを、リョウがことわった。優しそうな表情で告げる。

「気にすんな。お前らのやることをやれ」

 マユとサヤカがその場を離れてから、男が外を向く。

後先考あとさきかんがえず、熱エネルギーをためこむ仕組みばかり作りやがって。外が地獄じごくじゃねぇか」

 リョウに近づく足音。飲み物が差し出された。同い年に見える少女が、口をとがらせる。

「へぇー。繁森しげもり、モテモテじゃん」

余計よけいなことすんなよ、トモコ。風邪かぜひいて倒れたときに、世話せわになっただけだ」

 すごい勢いでボサボサ頭が近づいてきて、リョウがたじろぐ。トモコは怒りの形相ぎょうそう

「あの前? リョウ! ムチャするなって言ったのに」

看病かんびょう、頼んでねぇだろ」


 マユとサヤカは、文房具店ぶんぼうぐてんにやってきた。

「仲直りできたようで、よかったです」

 ふたたび雑談ざつだんを始めた二人が気づいたのは、話しかけられてからだった。みどり基調きちょうとした服の、色っぽい女性が微笑む。

 あいさつがわされる。

「近所に住んでいるおねえさんで、ネモトさん」

「サヤカです。仲違なかたがい? いつでしたっけ」

図書館としょかんに行ったときだよ」

 思い出話に花を咲かせる二人を、女性は邪魔じゃましない。おだやかに待った。

「そういえば、結構前けっこうまえでした。何かあれば、気軽に話してください」

 微笑ほほえむネモトが去っていく。

「なんか、心理学しんりがくっていうのに詳しいらしいよ」

 まるで話題の引き出しが無限むげんにあるかのごとく。話はきることがない。


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