第二章 念動を使う者たち

第六節 新たな脅威! 念動のゲーセーマ

第26話 近づく夏休み

 朝日をびる夾竹桃きょうちくとう

 道ばたの赤い花を気にする人はすくない。背のひくい木に、やわらかな視線しせんが向けられた。

 いたって普通の家。部屋へやから声がする。中はクリーム色と茶色。

「シュー、もうちょっと、分かりやすくできないかな?」

単位たんい。カラットが大きいほどつよい、ってことでしょ」

『そうだね。サヤカは理解りかいが早い』

 ひとりが持つ白っぽいケースから声がした。手のひらサイズ。もうひとりの手で、ケースの中央が光る。

「だよね。ギアが話さなくても、変身へんしんできちゃうんだもん。サヤカ」

 薄着うすぎの少女が言った。残念ざんねんな気持ちをそのまま顔に出したかと思えば、すぐに表情がかがやく。

「マユを見てただけ。あんまりめないで。ずかしいから」

 れた顔を見せまいと立ち上がった少女にかまわず、桃色ももいろ宝石ほうせきが話し始める。かわいらしい声で。

『カラダの延長えんちょうとしてちからをとらえると、もっとうまくたたかえるはずだよ』

「んー」

「服が変わるのも、そういう理屈りくつ?」

『そうだよ』

「よくわからないけど、記憶が戻ってきて色々わかったんだよね。シュー。よかったよ」

 上部分が欠けているシュー。かけらを手に入れれば、記憶が戻る。それが少女ののぞみ。

 いきおいよく立ち上がったマユが、肩まで届かない髪をふわりとらす。薄いピンクの移動ポケットに、まるいケースを入れた。

 ギアが欠けているのは下。1回光ると肯定こうていなので、かけらで記憶が戻っているらしい。

 水色みずいろ宝石ほうせき目配めくばせするサヤカ。ケースを移動ポケットにしまった。色は白に近いブルー。さらさらと流れるように髪が動く。

「そろそろ?」

「そう。もうすぐ夏休み! どこかへ行かない?」

 ピンポーン。高い音がひびいた。明るい顔のマユが部屋へやから出ていって、サヤカが残される。

 ふたりが部屋へやに入ってきた。来客は、部屋へやあるじより背が低いおさげの少女。

 固まる、もうひとりの客人。ロングヘアも動かない。作り笑いを浮かべようとして、上手くいかない。

「学校の友達の、サヤカ。やさしいんだよ」

「こんにちは。あたしは、ミツキ、です。えっとぉ、すごい人が来るからって――」

「普通だから。マユ、変なこと言わないで。あっ。こんにちは」

 三人とも笑顔になって、話が始まった。ポケットは光らない。


 音楽が流れる学校。授業がはじまる。

 シューとギアは、誰もいない教室で留守番るすばん

 マユは体育館たいいくかんにいた。めずらしく、ふたつのクラス合同での体育をするために。

 みんな体操服。座って順番を待つあいだ、はしゃぐ生徒が多い。

 同じクラスのコウスケが調子に乗った。メグミがあきれる。私語しごを注意されないように、大声で話はしない。

 隣のクラスの少年が活躍していた。短めの髪が風を切る。

「いいなぁ。レンマ。運動が得意とくいで」

「あの子? って、静かにしたほうがいいよ。カナエ」

 マユが小声で応じる。ひとりに集中せず、全体を見ていた。

 列に戻る少年。何気なく追った少女の目には、どこか悲しそうな表情に映った。


 マユは運動ができる。普通ふつうに。

 サヤカは、運動が苦手。しかし、知識ちしきおぎなう。大きなミスをしない。


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