第25話 仲間との誓い

「傷が治ってるよ」

「そういえば」

『ボクとギアにも、そのくらいさせてよ』

 雑談を聞きながら、男が目を覚ました。水色の光がきらめく。まぶしそうに目を細めた。

 リョウは、河川敷で横になっていた。

 身体を動かそうとしない男。それでも、近くにいる二人の少女への驚きを隠さない。

「なんだ。何やってんだ、お前ら」

「よかったよー。無事で」

「敵を助けて、どうすんだ」

「最後だったから、もう敵じゃないでしょ」

 サヤカの言葉の意味に気づき、苦笑いを浮かべたリョウ。水をたっぷり含んだ身体を起こして、座る。

「変身できるからいいようなものの、普通ならほっとくべきだろ」

「知らない人、ってわけでもないよ」

 マユの言葉を受けて、黒ずくめの男が頭を抱えた。メガネの位置を直す。

「知ってる奴でも警戒しろよ」

「これだけ元気があれば、大丈夫そう」


「もう一度聞くけど。なぜ、こんなことをしたの?」

「言っても、しょうがないだろ」

「力になりたいの!」

 ボブカットの少女に詰め寄られて、ぬれた髪の男がたじろぐ。

「たいしたことじゃない。おれの問題だ。自分でなんとかする」

「ガイロンについて教えて」

 さらっと話題を変える、ロングヘアの少女。けわしい顔ではない。すぐに答えが返る。

「下っ端だから、詳しく知らねぇ」

「本当?」

「もらった物を、言われたとおり使っただけだ」

『念動の力から考えて、ウソじゃないよ』

 サヤカの手で、水色の宝石が1回光った。

 宙に浮かぶかけらを、二人がそれぞれのポケットにしまう。

「シューとギアが言うなら、そうだよね」

「もう敵じゃない、だろ? おれに幹部は無理だし、潮時しおどきってやつだ」

 立ち上がった男に、ふたつの手が差し出される。右手と左手を別の少女がつかんだ。縦に振られながら、二度と敵にならないという約束が交わされる。

 おたがいに携帯電話を取り出し、番号を交換した。渋る男に拒否権はない。

「風邪ひいたな、こりゃ」

 ふたりに背を向けて階段を上っていくリョウが、口元を緩めた。


 坂の上に、黒い姿が消えた。

 河川敷を遠くから見ても、二人が傘を拾っていることが分かる。

 近くだと心の揺れが感じられる。ぎこちなく傘をいじる少女。ちらちらと見ながら、もうひとりの少女に距離を詰めた。

「サヤカさん。よろしくお願いします」

 やけに堅苦しいマユに、サヤカが思わず吹き出す。

「普段どおりでいいよ。仲間なんだし」

 すこし頬を染めて、階段を見ながら指差すサヤカ。首の角度を戻すと、笑顔のマユがいた。

「えへへ」

 いつのまにか元の色に戻っている傘のことは、いまの二人にはどうでもよかった。

「勉強で分からないところ、ない?」

「じつは、ある」

「自分で考えるなら、つきあう」

 傘をたたんだ二人が歩きだす。

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