第23話 ノーシスに降る雨

 かさを手にしたまま、マユが頼む。

「お願い。シュー!」

 まるいケースをかざした。なかのピンクの宝石ほうせきかがやく。

『エックスカラット』

 ピアノ中心の音楽が鳴った。

 光に包まれる少女。高い音が鳴るごとに服が変化していく。

 そでのあたりがふくらむ。ひらひらとしたかわいらしい、桃色を基調きちょうとした服装になった。

 シューは、移動ポケットの飾りとしておさまる。短めのスカートがゆれた。

 おでこの右上に髪飾りがつく。肩まで届かない髪の一部が、寝ぐせのようにとび出した。後頭部が結ばれている。

 かさも桃色に染まり、変身へんしん完了かんりょうした。

「ラディラブ・ピュア!」


 かさを持ったサヤカが決める。

「いくよ。ギア!」

 手にはまるいケース。羽のような形のライトブルーの宝石ほうせきが、中央でかがやく。

 1回だけ光った。

 打楽器中心だがっきちゅうしんの音楽がひびきわたる。

 つよい光でたされた。かがやきの中で少女の服が変化していく。軽快けいかいな音とともに。

 水色にえるいろどりとして、橙色だいだいいろがすこしだけ。白いレースの部分はあちこちにある。長袖ながそでになった服につづいて、靴下が長くなる。靴もかわいらしく変わった。

 もともと移動ポケットの飾りだったかのように、腰の左側にギアがおさまる。

 前髪の左上に髪飾りがつく。うしろはそのままで、長いまっすぐな髪の左右が細めに結ばれた。

 水色に変わった傘とともに、変身完了へんしんかんりょう

「ラディラブ・アレンジ」


 別々に変身へんしんした二人が、同時にノーシスを展開てんかいした。

 河川敷かせんしきから広がっていく境界線きょうかいせん。空に届きそうな広さ。

 とげとげしい部分のあるセーマと一緒に、別の世界へと移動する。


 幻の世界でも、あめっていた。

「これって、かささしたほうがいいの?」

『いらないよ。ブツリホウソクをねじげているにしては、ただの雨だから。ボクがふせぐ』

 理解りかいできていない表情をかくさないピュア。それにれずに、アレンジがかさを投げて走り出した。水は、身体からだに当たる前に消えている。

 これまでのくろ怪物かいぶつと近い動き。一回り大きいだけに見える。とげは飛んでこない。

理由りゆうを話して!」

 答えはない。かわりに、くろこぶしるわれた。人の身体からだよりも大きい。光をたてにしてもふせぎきれず、水色がうしろに下がる。ぬれた短い草が舞い散った。

 リョウの意識いしきはない。それでも、アレンジは語りかけることをやめない。

「そこにいるなら、手が届くはずでしょう」

 ピュアは、サヤカが誰かに手をのばす映像を思い浮かべていた。そして気づいた。みんなを助けようと、アレンジが一人で背負い込んでいることに。

 黒い足へと、桃色の光がぶつかる。セーマが尻もちをついた。

「協力しよう!」

 いろいろな思いではなく、一言だけ告げられた。

「しない。私だけで全部――」

 アレンジがしゃべわる前に、巨大きょだいあしが横からおそう。とげをふせぎきれない。悲鳴ひめいをあげて、二人は川表かわおもて堤防ていぼうまで吹き飛ばされた。

 服と身体からだの一部が、ところどころ線を引いたようによごれている。開かれた目に、くろ怪物かいぶつが映る。


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