第22話 黒い心

 しとしととあめる。

 部屋へやでくつろぐマユは、机の上にノートを広げていた。オレンジ色の服が、少女の姿態したいうすいろどる。

「よーし。そろそろ」

『かけらだ。近いよ』

「近い! ん? かけら?」

『セーマになる前の、念動ねんどうがこめられたやつだよ』

 にぎる手のなかで、ピンクの宝石ほうせきげた。十字の上部分が長い形。欠けていて痛々いたいたしく見える。相変わらず、かわいらしい声。

「これまで、くろ怪物かいぶつしか分からなかったよね?」

『この前ので、わかるようになったよ』

 まるいケースに乗った宝石ほうせきから、こともなげな言葉ことばはっせられた。薄ピンクの移動ポケットが開かれ、無造作むぞうさに詰め込まれる。

「そのときに言ってよ」

『必要があるのは、今でしょ。かけらが増えてきたね。そろそろ入れ物が――』

 かけらとともにられて、言葉の途中で玄関げんかんが閉まる。

 シューは、記憶を取り戻したことで、近くのかけらを察知さっちできるようになったらしい。


 かさして、マユは進む。

 にごった流れが見えてきた。坂を下り、大きな川を見渡す。まだ、緑の河川敷かせんしきに茶色いうねりは届いていない。

「どっち?」

『うしろ』

 振り向いたマユは、サヤカと目が合った。

 藍色あいいろの服の少女もかさしている。雨音がやまないなか、ゆっくりと階段を下りていく寒色かんしょく。同じ高さになった。

「こっちだって」

 サヤカもまるいケースを持っている。白っぽい。ライトブルーの宝石ほうせきが1回光った。

「ギアも、近くのかけらが分かるんだね」

『右』

 二人が川下を向く。かさを持たないリョウがあらわれた。髪はぐしゃぐしゃ。黒を基調きちょうとした服もずぶぬれで、厚着のため重く見える。

 セーマはまだいない。


 雨。くす男。メガネに光が反射はんしゃして、表情がよく分からない。

「どいつもこいつも、人間は邪魔じゃまだ」

 落ち着いている様子のリョウに、マユが話しかける。

「なんで、そんなことを言うの?」

「これが最後さいごだ」

 答えはない。雨が降っているはずなのに、ひどく静かな時間が流れた。

ちからのあるやつはすごいよな。1カラット以上か。こうなることが分かるんだから」

 自嘲気味じちょうぎみな笑いに、シューが反応する。

『人間の心は、じつにキョウミぶかいね』

「人には向き不向きがある。それだけのこと、でしょ?」

 サヤカの言葉も、リョウには届いていないようだった。

「おれの念動ねんどうがもっとつよければ、こんな……」

「目的は何?」

 やはり、答えはない。

 マユはだまっていた。どうすればいいのか分からず、ただ、悲しんでいた。

「心を食らえ、セーマ!」

 右手に桃色。左手に水色。ふたつのかけらを手にしたリョウが、むねなぐるような格好かっこうで押しつける。反発するちからった。

 さけごえひびく。

 黒く染まるかけら。やみがあふれ出す。

 そして、セーマが現れた。これまでよりひとまわり大きい。全長は約6メートル。


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